詩音と海と温かいもの
 五月の頭、昼前に私は駅前に向かった。

 春休みとは違って、早く駅に行きたかったからバスに乗って向かう。

 バスがロータリーに入ったら、匠海さんが見えた。

 匠海さんも気がついて手を振ってくれる。


「匠海さん!」

「おー、久しぶり」


 バスから降りて飛びついたら、匠海さんが受け止めて抱きしめてくれた。

 ひと月前と同じように大きくて温かくて、胸の奥が安心する。


「詩音ちゃん、少し大きくなった?」

「一ヶ月じゃそんなに変わらないよお。匠海さん、お昼どこに行こうか」

「何食いたい?」

「えっとね、春休みに匠海さんが作ってくれたパンケーキ」

「それは明日の朝な。あのさ、ハンバーガーでもいい? 小崎町になかったチェーンがあってさ」

「匠海さんと一緒なら、何でもいいよ」


 体を離して、代わりに手を繋いで歩き出した。

 二人でハンバーガーを食べてから匠海さんの部屋にお邪魔する。

 教わりながら勉強していたら、気付いたときには空がオレンジになっていた。


「暗くなってきたし、カーテン締めるね」

「お、もうこんな時間か。晩飯用意しよっか。近くにスーパーあるから行こうぜ」

「うん!」


 また手をつないで部屋を出た。

 ずっとこうやっていられたらいいのになあって思うくらいには、楽しかった。
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