詩音と海と温かいもの
 ともかく、詩音ちゃんと電車に乗った。ボックス席で向かい合って、どうでもいい話を続けた。

 詩音ちゃんは時々申し訳なさそうで、別に気にしなくてもいいんだけどな。

 スマホが震えて、親からメッセージが届いた。


「詩音ちゃん、晩飯何がいい? 親が仕事遅くなるから好きに食えってさ」

「私は何でも……あ、あー、どうしようかな」

「何か思いついた?」

「その、前に匠海さんに作ってもらったパエリアが美味しかったなーって。でも、作るの大変だし、あの、違うので」

「別に大変じゃねえよ。具材を炒めたらあとは放っておけるし。じゃあ、一度帰ってから美海も連れて買い出しに行こうか」

「すみま……ありがとう、匠海さん」

「どういたしまして、詩音ちゃん」


 のんびりパエリアの具材とか付け合わせの話をしているうちに小崎町に着いた。


 バスで家に向かうと、美海と夜が家の前で待っていた。


「詩音、久しぶり」

「詩音だー!!」

「わ、美海。夜も」


 美海が勢いよく飛びついて、詩音ちゃんが倒れかけた。

 慌てて支えると、美海が俺ごと抱きしめてきた。


「もー、何遠慮してんの!? ばか! 寂しいでしょうが!!」

「ご、ごめん……。えへ、ありがとう」

「いーよ、荷物置いて買い出し行くんでしょ」

「うん、匠海さんのごはん楽しみ!」


 美海がやっと体を離して、詩音ちゃんと家に入っていった。

 残された俺と夜は、顔を見合わせた。


「匠海さん、詩音を連れてきてくれてありがとう」

「何でお前が礼を言うんだよ」

「詩音がここに来にくくなったの、僕のせいだし。美海も寂しがってたから」

「別にお前のためじゃねえけどさ。……何か、しんどそうな顔してたから。ダメだろ、中学生にあんな顔させちゃ」

「僕も、そう思う」


 夜が詩音ちゃんの荷物を持とうとしてくれたけど、断って俺が運んだ。

 普段友達とか親戚が泊まるのに使う和室があるから、そこに運んでおいた。


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