ユーレイくんとの恋はあぶない秘密が多すぎる

 ○家への帰り道・夜遅い

 結歌「はあ、っはあ……!」

 自分の家が見えてきたところで汗をぬぐい、後ろを振り返る。
 付いてきている雰囲気はなく、少しだけ安心する。


 結歌(あれは一体……)


 モノローグ:いや、考えるまでもなくストーカーだったのだろう。全く気が付かなかった。


 プライベートをずっと監視されていたと理解し、ぞくっと悪寒が走る。



 結歌(怖い……!)



 そんな危険人物がすぐそばにいたなんて。と不安と恐怖に襲われると、黒いモヤがその気持ちに反応して寄ってきていた。

 結歌「しま……!」


 気が付くのが遅れた結歌にまとわりつく。息が苦しくなっていき、意識が遠のいていく。

 結歌「……! 誰か……」


 嶺「結歌ちゃんに触るなゲスが!」

 急に息ができるようになり、激しく咳き込む。めまいのする中で見上げると、今までみたことのないほど怒っている嶺が結歌とモヤの間に立ちふさがるように立っていた。

 モヤは嶺から逃げるように消えていった。


 嶺「結歌ちゃん!」

 へたり込む結歌を心配し、覗き込んでくる。


 結歌「……うっ」


 恐怖と安心が同時に襲ってきて、思わず涙がこぼれる。


 嶺「ゆ、結歌ちゃん、泣かないで。ああ、どうしよう。怖かった? ごめんね、すぐに来れなくて。ええと、ええと……」

 結歌(……こんなに余裕のない嶺くん、初めて見た)


 いつも余裕のある態度な嶺が焦っているのが新鮮に感じる。

 結歌(それに……)

 嶺は一定以上近寄らないようにしていた。何度か手を伸ばしてきたけれど、そのたびに慌てて引っ込めている。


 結歌「……近寄らないの?」
 嶺「……さっき触らないでって言われたから。キミが嫌がることはしたくないし……」
 結歌「……んふ、なにそれ」


 モノローグ:盗撮していたくせに、変なところで律儀だ。でも嫌がることはしたくないというのは本当なのだろう。嶺くんは今も一定の距離を開けたまま安心したように微笑んだ。

 嶺「……よかったぁ。笑ってくれた」

 へにゃりと笑う嶺に、少しだけ安心して、涙を拭って顔を上げる。
 ふと見ると嶺は頭から血を流していた。


 結歌「!? 嶺くん、それ! もしかしてモヤに!?」
 嶺「え? ああ、これ? これは結歌ちゃんに突き飛ばされたときにぶつけて」
 結歌「あ、あたしのせい……? そ、そんなつもりじゃ……!」

 さっと顔を青くする。

 嶺「ああ、大丈夫大丈夫。頭だから出血量がすごく見えるだけだよ。結歌ちゃんからもらった傷だから、隠したくなくて止血まだなんだよね」
 結歌「何言ってるの!?」
 嶺「いや、本当にありがとうございます! って感じ」


 なぜかキラキラした笑みで言われ、ヤバいはヤバいけどベクトルの違うヤバいやつなのかもしれないとドン引く。けれどどんどん息が上がっていく嶺に、心配が勝ってしまう。


 結歌「ね、ねえ。本当に大丈夫? なんだか……」
 嶺「大丈夫大丈夫……げふ……」
 結歌「嶺くん!? きゃー! ヤダ、しっかりーーー!!」


 全然大丈夫ではなく、真っ白な顔でその場に倒れる嶺。


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