私が好きになったのはどっちなの?
「馬鹿なんかじゃないよ。どうしたの?」
 泣き上戸なのだろうか。
「わからなくなっちゃった」
「なにが?」
 支離滅裂でこっちがよくわからない。
「私は……誰を好きになったの?」
 花梨ちゃんに押し倒される。
 酔っ払っているから、なにが言いたいのかよくわからない。
「樹でしょ?」
 戸惑いながらそう答えるが、なぜだか胸がチクッとする。
「蓮しぇんせ……私のこと覚えてる?」
 またさっきと同じ質問をされて、彼女が求めている答えを口にする。
「覚えてるよ。今日はなにも考えずおやすみ」
 なにに対して覚えてる?と聞いてきているのかわからないが、バス事故で運ばれてきた彼女の姿が頭に浮かんだ。
 廊下に無造作に置かれたストレッチャーの上で怯えた目で周囲を見ていて……。
『助けて』って彼女の声が俺には聞こえた。
 彼女の背中に手を回して抱きしめると、しばらくして静かな寝息が聞こえてきた。
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