私が好きになったのはどっちなの?
 意地悪な命令だと思う。
 樹が好きなのに俺に触れさせるのだから。
「でも……」
 躊躇する彼女の負担にならないよう軽く言う。
「注射の時は遠慮なく触ってるじゃないか」
「あれは仕事だからです!」
 俺を樹とは思っていないはずなのに、なに抵抗してんだか。
「いいから触れて」
 甘い声で命じれば、彼女が恐る恐るといった感じで俺の頬に手を伸ばしてきた。
 そして、躊躇いがちに俺に触れてくる。
 トクン――。
 どちらの心臓が鳴ったのか。
 彼女の手は冷たいのに、触れられたとことは熱くなっていく。
「触れたらどうすると思う?」
 花梨ちゃんの瞳を真っ直ぐに捉えて、問う。
「え?」
 曇りのない目で彼女が聞き返してくる。
 いや、単に俺の質問に驚いているのかもしれない。
 俺も彼女の答えを聞いたわけではなかった。
 ああ……彼女が欲しい。
 林檎みたいに赤く色づいたその唇に顔を近づける。
 その瞳には困惑の色が見えていた。
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