私が好きになったのはどっちなの?
 彼女には恋愛に臆病になってほしくない。
「レッスンしてくれなかったら先生を恨みます」
 今にも泣きそうな声だった。
 他の女なら泣いたって気にしない。だが、花梨ちゃんだけは泣かせたくなかった。
「……わかった」
 ハーッと息を吐きながらオーケーするけど、まだ迷っている自分がいた。
 いつもの俺だったらにこやかに笑って話を逸らしただろう。
 彼女のキスの願いを聞き入れるなんて、俺は頭がおかしいのかもしれない。
 花梨ちゃんの横に座って彼女に目を向ければ、どこか青白い顔をしている。
「緊張してるようだけど、無理してない?」
 すぐにはキスをせず、最後に確認する。
 一度キスしてしまったら、もう取り消せない。
 お互いの関係も変わってしまうような気がした。
「嫌だったらこんなお願いしません」
 俺の言葉を彼女は感情的になって否定してくる。
 ……花梨ちゃんは本気だ。
「それもそうか」
 教え子にキスするようなものだな。
 自嘲するように笑って彼女を見据えた。
 漆黒のその綺麗な瞳には俺が映っている。
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