私が好きになったのはどっちなの?
 純粋で、真っすぐで……そのナチュラルさに魅せられずにはいられない。
 好きで……愛おしくて……自分のものにしたくなる。
 だが、彼女が好きなのは樹だ。
 俺は樹を演じる。
 俺の気持ちを花梨ちゃんに悟られてはいけない。
「花梨ちゃん」
 いつものように名前を呼んで、彼女に命じる。
「目、閉じて」
 目を開けられては、髪の色が違うし、樹とは思えないだろう。
 花梨ちゃんが素直に俺に従うと、もうひとつ命令を出す。
「俺を樹と思って」
 彼女に命じることで、自分にも暗示をかけた。
 俺は樹だ――と。
 感情を殺し、花梨ちゃんに顔を近づけてキスをする。
 微かに唇に触れる程度。
 これでいい。
 なんとか自分の欲望を抑えることができて安堵する。
 すぐにキスを終わらせれば、彼女が目を開けて俺を見た。
 どんな顔をするのかと思っていたけど、どこか不満そうな目で上目遣いに俺を見つめてくる。
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