私が好きになったのはどっちなの?
寝ぼけてるのか?
「起きたいから、手を放してくれないか?」
 優しく声をかけると、「嫌……」と呟きに近い声が返ってきて、さらにギュッと抱きつかれた。
 胸が当たってるんだが……。
 他の女なら誘惑しにきているのかと思うけど、彼女の場合は親戚の子供が戯れているように感じる。それは彼女に邪気がないからだろう。
 今だって目を閉じて嬉しそうに微笑んでいる。
「樹先生……」
「だから、樹じゃないんだって。……参ったな」
 前髪をかき上げて、ハーッと息を吐く。
 どうする、これ?
 天井を見つめ、自問自答する。
 手を出す気はまったくないけど、抱きつかれたままなのは困る。しばらくしたら寝返りを打って、解放してくれるだろうか? そしたらベッドを出よう。
 それにしても……まつ毛が長いな。
 化粧っ気もないし、肌も卵みたいにつるんとして綺麗だ。まるで赤ちゃんの肌。
 女性の顔をこんなにじっと見ることは今までなかったかもしれない。
 あざとい女しか寄ってこなかったから、俺もそんな気が起こらなかった。
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