私が好きになったのはどっちなの?
 思わず声をあげる私に、樹先生がクールな顔で注意する。
「ああ、君か。気をつけて」
「す、すみません。気をつけます」
 再度謝って早足で脳外に戻るが、ひとり興奮していた。
 樹先生と喋っちゃった。あ~、カッコいい。
 なにがあっても動揺しないあの冷静さがいい。
 あれで事故に遭った時みたいに笑ってくれたらもう最高なんだけどな……って、贅沢言っちゃいけない。
 喋れただけでもすごいことだよ。
 仕事を終えると、また優希くんの病室に立ち寄る。
 彼は日中と変わらぬ姿で眠っていた。
「優希くん、私ね、今日樹先生と喋ちゃった。目だってちゃんと見たんだよ。また明日ね」
 彼の顔を見て笑顔で報告すると、病院を後にした。
 昨日は蓮先生の家にお泊りしちゃったし、そのまま療に帰ろうかと思ったけど、麻里さんのお店に立ち寄った。
「……こんにちは」
 ドアを開けて中に入ると、昨日と同じように麻里さんがグラスを磨いていて、私を見て頬を緩める。
「あら、花梨ちゃんいらっしゃい。今日はメガネね。メガネも似合う」
「ありがとうございます……じゃなくて、あの……今日は食べに来たんじゃなくて、昨日のお詫びに……。酔ってご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。着替えもしてくださったそうで」
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