私が好きになったのはどっちなの?
 蓮先生が樹先生に声をかければ、樹先生は無表情で竿を振り下ろしリールを巻く。
 その一投目で魚がかかり、当然のように釣り上げた。
 好きなだけあって、一連の動作に無駄がない。
 樹先生……釣、すごく好きなんだ。
 釣りはそれほど興味がなかったけど、糸の結び方とかちゃんと覚えようかな。
「先生、神ですね」
 静香さんが珍しく興奮しているのを見て、私も同意するように小さく微笑んだ。
「本当に。魚、私たちの分残しておいてくださいよ」
 よし。今度はつっかえずに言えた。
「ああ。俺ちょっとコーヒー買ってくる」
 マイペースな樹先生はまだ眠いのか、事務所の自販機の方に歩いていく。
「ふたり、釣ってていいよ」
 蓮先生に言われ、私も静香さんと並んで釣り始めると、しばらくして静香さんの竿に魚がかかった。
「え? あっ、どうするの?」
 あたふたする彼女にアドバイスする。
「普通にリールを巻くんですよ」
「わ、わかった」と返事をして静香さんが魚を釣り上げ、私が慌てて網で掬うけど、彼女が怖がって魚を針から外せない。
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