転生したら捨てられ公爵夫人になったので放置生活を楽しみます~使えない才女ですので、どうぞお気になさらず~
 ルイス曰く。もともとレトラシカ公爵領というのは魔獣出没が多く、植物の育ちにくい不毛の土地と呼ばれていたそうだ。
 それが百三十年前、エルヴァン様の先祖、初代レトラシカ公爵が領地を治めるようになったことで魔獣退治がはかどり、農業は新しく三圃制を敷き少しずつ生産力が上がった。とはいえ、土地の痩せたレトラシカ公爵領では食べるのもカツカツといった程度。
 それを補うための収入が――魔石だった。
 北のスノウルーブ山はカロレステーレ王国一の魔石採掘量を誇る魔石鉱山だ。隣領のプレテリヨ伯爵領と接する鉱山で、ルーブ川を挟み西側をレトラシカ公爵家が、東側をプレテリヨ伯爵家が魔石採掘の権利を持っている。
 魔石はグリモワールに吸収させることで魔法の威力を高めることもできるし、魔法道具の動力にもなる。
 アクセサリーとしても人気で、より大きくて美しい魔石収集を趣味にする者も多い。トリステット殿下もその趣味人のうちのひとりだ。
 そのため国内だけでなく、他国への輸出品としても需要のある、レトラシカ公爵領にとって大変重要な鉱物資源なのだ。

 そこまで聞いて首を捻る。

「え? ということはまさか魔石が枯渇したということ? いえ、でもおかしいわね。そんな大事な報告は見た覚えがないわ」

 王立学園に入学した頃からトリステット殿下の執務を手伝っていた。いや、ほとんどを担っていたと言ってもいい。
 トリステット殿下は王太子となる資質を求められていたため、外交関係の報告が全て彼の下へと上がってきたのだが、それを確認するのはわたしの仕事だった。
 魔石の輸出量が減ったという話は聞いたことがない。去年までの資料では、むしろ取引量はここ数年微増しているくらいだ。

「いいえ、枯渇したのではなく、レトラシカ領からの採掘ができなくなったんです。五年ほど前から、その……神獣フェンリル様が住み着いたために」
「!? ……ああ、そういうことなのね。それならば確かに採掘は無理ね」

 神獣は女神ルメルシェティアの御使いだ。いつどこに現れるともわからない。機嫌を損ねれば嵐を呼び大地を凍りつかせるとの伝説もあるほどで、決して害をなしてはいけない存在として畏怖されている。

「はい。近づくどころか語ることすらも恐れ多いので、対外的には落盤事故で採掘ができないと。領民にもいつ地崩れが起こるかわからないので、絶対に誰も立ち入らないよう申しつけております。それだけでなくルーブ川も流れを変え、畑に引くはずの水もままならない状況です」
「それは、困ったわね」

 神獣相手では、人では太刀打ちできない。川の流れが変わった理由が神獣フェンリル様にあるのかはわからないが、彼らが居を構えたというのであれば百年でも二百年でも気がすむのを待つしかないのだ。
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