転生したら捨てられ公爵夫人になったので放置生活を楽しみます~使えない才女ですので、どうぞお気になさらず~
「そうなんです。去年は麦だけでなく野菜類も収穫量が少なくて。家畜は魔獣被害に遭うわ、散々な状況でした。公爵家の麦倉を開けてなんとか領民も飢えずにすみましたが」
持っていた書類をぎゅっと握りながらわたしへと近づいてくる。
「一応今回のお祝い金で多少の補填はできましたが、まだまだです」
結婚の意思のないエルヴァン様がわたしとの婚姻を了承したのはどうしてもお金が必要だったということだ。
あ、やっぱり。
わかっていたこととはいえ面と向かってお金のためと言われるのは軽くモヤモヤする。
やはりルイスにはわたしにいろいろと思うところがあるみたいだ。
うーん、と口を尖らせながら、ルイスから顔をそらして窓の外を見る。すると、どこからか庭に入ってきた三、四歳くらいの白髪の男の子がそのあたりの草をむしって口の中に入れているところだった。
あっ、あー……それは、ちょっと……。
あまりにも美味しそうに食べている男の子の姿を見て、慌てて窓に手を置いた。
その男の子は粗末な格好をしているけれど、あきらかに普通ではないと思えるほどの綺麗な顔立ちをしていた。ふわふわの白い髪がまるで天使の羽に見えてしまうほどに。
「あ、君……!」
わたしが見ていることに気がついた男の子は、にぱっと笑顔を見せると四つん這いになり素早く庭木の中に隠れてしまった。
「あんな可愛らしい子が、雑草を食べているなんて」
それを隣で見ていたルイスが、突然胸に手を当てて悲しそうな素振りをする。
「特に今年は雨も少なくて。このままでは領民皆、あの子どものように草を食まなければいけなくなるでしょう」
「あー……」
想像できてしまった。検索を使ってレトラシカ公爵領の状態を調べなくとも、現状の話を聞いただけでなかなかのじり貧であることを。
あんな小さな子どもがご飯も普通に食べられなくなるのはさすがに嫌すぎる。
苦虫を噛み潰したような気分のわたしに、ルイスが思いきりうさんくさい笑顔を向けた。
「ですから、才女と名高いアリアージュ様にはこのレトラシカ公爵領のために、お知恵を貸してはいただけませんか?」
え? 急に、何!?
「いえ、わたし、何もするなって、エルヴァン様からおっしゃられているのだけれど?」
結婚式の後でした約束を二週間かそこらで早々に破るつもりはない。
「いいえ。エルヴァン様は、何をしてもいい、とおっしゃいましたよ」
「いえいえ。たしか邪魔をしないようにって……」
「邪魔をしなければ何をしてもいいんです。アリアージュ様、どうか考えていただけないでしょうか? 本当に少しだけでよろしいのです」
「えっ、ええー……」
正直、絶対に何もしたくない。本だけ読んで過ごしたいというのがわたしの本音だ。
あれほど王子妃教育を頑張っても、トリステット殿下の代わりにほとんどの執務をしても、結局のところ婚約を破棄されてしまったのだ。二度と面倒事を引き受けたくはない。
せっかく、せっかくエルヴァン様からも、何もしなくていいとお墨付きをもらったというのに……。でも……。
いつの間にか戻ってきた、シータリアとラズが図書室の扉の前でこちらの様子を窺っている。
特にラズの方は何かを言いたげでいて、でも自分からは言えない視線。そんなつぶらな瞳で見つめられると、ここで断ったら何かわたしが悪いみたいな気になってしまう。
勿論何もしなくとも問題はない。ただ、わたし自身の気持ちの問題だ。
領民が飢えに苦しみ辛い思いをしている中で、自分だけ持参金で本を読みのんびりと過ごす。
……さすがにそれは、ないわ。どんな極悪人よ、それ。
少なくとも仕事に見合った食事ができる生活。せめてそうあってほしい。
前世での日本人としての記憶があるからこそそう感じてしまう。
それでいてこそ、わたしもゆっくりと読書三昧をしていられる気持ちになれる。
そう。ひいてはこれは自分のためでもあるのだ。
わたしはぎゅっと唇を引き締めて意を決する。
「わかったわ」と、奥歯を噛みしめ小さい声で了承した。その返答に、ルイスの細い目がキラッと光ったように見えた。
持っていた書類をぎゅっと握りながらわたしへと近づいてくる。
「一応今回のお祝い金で多少の補填はできましたが、まだまだです」
結婚の意思のないエルヴァン様がわたしとの婚姻を了承したのはどうしてもお金が必要だったということだ。
あ、やっぱり。
わかっていたこととはいえ面と向かってお金のためと言われるのは軽くモヤモヤする。
やはりルイスにはわたしにいろいろと思うところがあるみたいだ。
うーん、と口を尖らせながら、ルイスから顔をそらして窓の外を見る。すると、どこからか庭に入ってきた三、四歳くらいの白髪の男の子がそのあたりの草をむしって口の中に入れているところだった。
あっ、あー……それは、ちょっと……。
あまりにも美味しそうに食べている男の子の姿を見て、慌てて窓に手を置いた。
その男の子は粗末な格好をしているけれど、あきらかに普通ではないと思えるほどの綺麗な顔立ちをしていた。ふわふわの白い髪がまるで天使の羽に見えてしまうほどに。
「あ、君……!」
わたしが見ていることに気がついた男の子は、にぱっと笑顔を見せると四つん這いになり素早く庭木の中に隠れてしまった。
「あんな可愛らしい子が、雑草を食べているなんて」
それを隣で見ていたルイスが、突然胸に手を当てて悲しそうな素振りをする。
「特に今年は雨も少なくて。このままでは領民皆、あの子どものように草を食まなければいけなくなるでしょう」
「あー……」
想像できてしまった。検索を使ってレトラシカ公爵領の状態を調べなくとも、現状の話を聞いただけでなかなかのじり貧であることを。
あんな小さな子どもがご飯も普通に食べられなくなるのはさすがに嫌すぎる。
苦虫を噛み潰したような気分のわたしに、ルイスが思いきりうさんくさい笑顔を向けた。
「ですから、才女と名高いアリアージュ様にはこのレトラシカ公爵領のために、お知恵を貸してはいただけませんか?」
え? 急に、何!?
「いえ、わたし、何もするなって、エルヴァン様からおっしゃられているのだけれど?」
結婚式の後でした約束を二週間かそこらで早々に破るつもりはない。
「いいえ。エルヴァン様は、何をしてもいい、とおっしゃいましたよ」
「いえいえ。たしか邪魔をしないようにって……」
「邪魔をしなければ何をしてもいいんです。アリアージュ様、どうか考えていただけないでしょうか? 本当に少しだけでよろしいのです」
「えっ、ええー……」
正直、絶対に何もしたくない。本だけ読んで過ごしたいというのがわたしの本音だ。
あれほど王子妃教育を頑張っても、トリステット殿下の代わりにほとんどの執務をしても、結局のところ婚約を破棄されてしまったのだ。二度と面倒事を引き受けたくはない。
せっかく、せっかくエルヴァン様からも、何もしなくていいとお墨付きをもらったというのに……。でも……。
いつの間にか戻ってきた、シータリアとラズが図書室の扉の前でこちらの様子を窺っている。
特にラズの方は何かを言いたげでいて、でも自分からは言えない視線。そんなつぶらな瞳で見つめられると、ここで断ったら何かわたしが悪いみたいな気になってしまう。
勿論何もしなくとも問題はない。ただ、わたし自身の気持ちの問題だ。
領民が飢えに苦しみ辛い思いをしている中で、自分だけ持参金で本を読みのんびりと過ごす。
……さすがにそれは、ないわ。どんな極悪人よ、それ。
少なくとも仕事に見合った食事ができる生活。せめてそうあってほしい。
前世での日本人としての記憶があるからこそそう感じてしまう。
それでいてこそ、わたしもゆっくりと読書三昧をしていられる気持ちになれる。
そう。ひいてはこれは自分のためでもあるのだ。
わたしはぎゅっと唇を引き締めて意を決する。
「わかったわ」と、奥歯を噛みしめ小さい声で了承した。その返答に、ルイスの細い目がキラッと光ったように見えた。