転生したら捨てられ公爵夫人になったので放置生活を楽しみます~使えない才女ですので、どうぞお気になさらず~
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 私、エルヴァン・レトラシカはグリモワールを持たず魔法が使えないため、剣で身を立てていくつもりで王立学園在学中から魔獣退治に明け暮れた。卒業後は騎士団へ入団予定だったのだが、突然の事故で亡くなった兄の代わりに公爵位を継ぐこととなった。
 従者のルイス・ヘルベルトは今年二十七歳になる黄のグリモワール持ちだ。男爵家三男という、いわば貴族の一番端っこに位置している。
 王立学園で学んだものの、赤の炎や橙の雷、青の水や氷のように華々しい貴族らしい魔法は使えず、かといって藍や紫のように特殊な魔法が使えるわけでもなかった。
 どちらかというと生産、しかも平民向きの魔法しか使えない黄色表紙のため、真剣に魔法を学ぶことなく卒業し、寄親でもある我がレトラシカ公爵家の侍従となったようだ。
 私とは王立学園での先輩後輩にあたり、もともと外れ者同士の見知った仲であった。
 だからこそルイスは結婚式が終わってすぐ、執務室に入った主人であるはずの私に向かい自分の意見をはっきりと口にした。

「……エルヴァン様。あれはないです。いくらなんでも結婚したばかりの花嫁に対して、あの言い方はないですよ」

 糸目をよりいっそう真っ直ぐにしてルイスが注進してきたのは、アリアージュに対しての言葉だ。

「あんなにバカ正直に話すことはないでしょう」
「しかし、甥のカイゼルに後を継がせることは絶対なのだから早めに言っておいた方がいいだろう。どちらにしてもそれだけは変えるつもりはないのだから」
「いや、そうでしょうけれども、あんな言い方をすれば逃げ出されてもおかしくないですって」

 せっかく私の下へやってきた花嫁。婚約破棄されたという瑕疵はあるが、アリアージュは才女と呼び声が高い。何しろその婚約破棄により多額の違約金を持参してきているのだ。
 今さら逃げられてたまるものかとでも考えているのだろう。

「この際同情でも何でもいいから、このレトラシカ公爵領を立て直すために協力を仰ぎたいです。はっきり言って金だけでもいいから少し出してはくれないですかね?」

 そのつもりで、もう少しアリアージュに対して優しく接してほしい。なんなら疑似恋愛でも何でも、そのムダに美しい顔でしかけてくれとルイスは私に詰め寄る。
 だが私は黙って首を振った。

「こちらから離縁を申し出ればアリアージュの評判を落とすことになる。傷心の彼女が落ち着くまではゆっくりと過ごした後、あちらから私を捨ててくれるというのであれば何も問題はないさ」

 できればそうしてほしい。私のような半端ものと一緒になっているよりは、王都に戻り新しい縁を結んだ方が幸せになれるはずだ。
 男の私とは違い、女性ならばグリモワールの有無もそれほどマイナス要素にはならない。
 ただそれでも、アリアージュがここで過ごす方を選ぶのだとしたら、少しでも楽に過ごせるようにするのが夫たる自分の務めだろう。
 たとえそれがかりそめの夫婦の形だとしても。

「問題はありありです。山積みなんですよ!」

 ルイスの叫びにも一理あるが、それでもアリアージュを利用するのは違う。

「それよりも南のダイラ集落付近でまた魔獣被害が出ているとの報告があった。明日には討伐に向かうので準備をしておいてくれ。この際だからあの辺りの魔獣を重点的に片付けてくる。素材がよければ少しは金にはなるだろう」
「足りませんけどね」

 今朝届いた陳情書をルイスに手渡すと、それをチラリと流し見して、溜め息を吐き出す。

「とにかく戻ったらまたいろいろと考えよう。……彼女には静かに過ごしてもらうように、頼んだぞ、ルイス。――アリアージュに無理は言わないように」

 そう言って私は鍵の束を手に取ると、図書室の鍵を抜きルイスに渡した。
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