転生したら捨てられ公爵夫人になったので放置生活を楽しみます~使えない才女ですので、どうぞお気になさらず~
第二章 隠し子狂騒曲
わたしがレトラシカ公爵家のために知恵を貸すと言った言葉を聞くやいなや、ルイスはたくさんの書類を図書室へと運び込んできた。
「こちらが五年前から前年までの収穫量と税収になります」
資料も紐で括られれば簡易的でも本に見える。わたしは喜んでパラパラとめくり目を通した。
手伝うと決めたのだから最善は尽くすのが主義だ。
何よりそれこそが、わたしが心置きなく読書を楽しむためのものなのだから。
とにかくできるだけ多くの資料を読み込みたい。それこそレトラシカ公爵領で起こったこと全てを。
「これ以前のものはないかしら? できれば魔石鉱山の採掘量の方も見てみたいのだけれど大丈夫?」
「三十年分まではエルヴァン様の執務室にありますのでお持ちいたします。それ以前のものでしたら、図書室の最上段の棚に並んでいます」
「あの鍵付きの棚のこと?」
「はい。図書室の鍵で開けることができますのでご自由に閲覧ください」
ニコニコとルイスが答えてくれるが、本当にいいのだろうか?
領内の税収だの、収穫量だのって機密事項じゃないの? 来て二週間足らずのわたしにそこまで見せていいものなの?
新しい本を読めることは嬉しいが、自分から尋ねておいて心配になる。
「まあ見てみればわかると思いますが 、全てにおいて秘密にするほどのものはございませんので。ついでですが、初代公爵からの日記もあります」
「……日記。それはいいわね。後でそれも下ろしてもらえるかしら」
その地に住む人が書いた日記ほど、いろいろな情報が詰め込まれているものだ。
一見無駄な内容に見えて、後からパズルを作ってみれば意外なほど重要なピースだったなんてこともある。
そんな資料を読み進めれば進めるほどルイスの言葉が正しいとわかるほどに、レトラシカ公爵領の収益は寒かった。
念のためと渡された請求書の山も見せられてよりいっそう頭が痛くなる。
これは、思いのほか長期戦になりそうよね……。いろいろとやることが多すぎるわ。
長く続く乾季による水不足に作物不良。魔石鉱山の閉鎖における収入減だけでなく、労働者問題。魔獣被害による消滅集落について。問題は山積みだ。
図書室の机の上に山盛りに載った本の山を見ながら小さく息を吐いていると、最上段から過去の資料を運んできたシータリアが覗き込んで尋ねる。
「大丈夫ですか? アリアージュ様」
両手に一杯、重い本を持っては運んでくれるシータリアには感謝だ。力のないわたしにはとてもできない。
「大丈夫よ。……ねえ、それよりシータリア、今日はあの子を見かけなかったかしら?」
あの子とは白髪の男の子のことだ。あれから何度か屋敷の敷地内で見かけたけれど、そのたびに草やら花やらを持っては口の中に頬ばっていた。
早く何とかして保護してあげないと、お腹を壊すどころか病気になってしまう。
「今日はまだ見ていません。あの子は小さいうえに動きが素早く、気がつかれるとすぐに茂みに隠れて逃げられてしまいますので、そのうち本気で茂みの中まで追いかけてみるつもりです」
「ありがとう。でも無理はしないでね」
「護衛騎士は体力が取り柄ですから。アリアージュ様とは違いますでしょう? あちらのことは私に任せて、得意分野で頑張りましょう」
そう。残念なことにわたしは全く体力がない。しかし幸運なことに、わたしの頭の中には今世と前世の知識が記憶されている。
グリモワールを持たないわたしにとっての唯一にして最大の武器だ。
これがあったからこそ、トリステット殿下からのいきなりの婚約破棄からの追い出しも、レトラシカ公爵家での空気扱いも、気にせずにやってこられた。
だからいつまでもぐだぐだ考えているだけじゃなく、その知識を使ってできることから始めよう。
「うん。そうね、シータリア。一通り調べて考えたのだけれど、まずは水不足の解消かなと思うの。雨を降らせるのを手伝ってくれる?」
「雨、ですか? また無茶を言いますね」
「あなたとわたしのアレがあればなんとかできると思うのよね。むしろあの子を捕まえるよりは楽かもよ?」
検索したものを書き写した紙をチラリと見せた。
魔法で気候を操ることはできない。その定説を知っているルイスは懐疑的な目でわたしを見ている。
自分から手伝ってくれと言っているわりには信頼……というか、そもそもあまり期待をしていない気がする。
「さすがにそれは無理では? あの、それよりも水ならば隣領の商人が……」
口を挟もうとするルイスをまあまあと抑え、わたしはラズも一緒に連れて外に出た。
「こちらが五年前から前年までの収穫量と税収になります」
資料も紐で括られれば簡易的でも本に見える。わたしは喜んでパラパラとめくり目を通した。
手伝うと決めたのだから最善は尽くすのが主義だ。
何よりそれこそが、わたしが心置きなく読書を楽しむためのものなのだから。
とにかくできるだけ多くの資料を読み込みたい。それこそレトラシカ公爵領で起こったこと全てを。
「これ以前のものはないかしら? できれば魔石鉱山の採掘量の方も見てみたいのだけれど大丈夫?」
「三十年分まではエルヴァン様の執務室にありますのでお持ちいたします。それ以前のものでしたら、図書室の最上段の棚に並んでいます」
「あの鍵付きの棚のこと?」
「はい。図書室の鍵で開けることができますのでご自由に閲覧ください」
ニコニコとルイスが答えてくれるが、本当にいいのだろうか?
領内の税収だの、収穫量だのって機密事項じゃないの? 来て二週間足らずのわたしにそこまで見せていいものなの?
新しい本を読めることは嬉しいが、自分から尋ねておいて心配になる。
「まあ見てみればわかると思いますが 、全てにおいて秘密にするほどのものはございませんので。ついでですが、初代公爵からの日記もあります」
「……日記。それはいいわね。後でそれも下ろしてもらえるかしら」
その地に住む人が書いた日記ほど、いろいろな情報が詰め込まれているものだ。
一見無駄な内容に見えて、後からパズルを作ってみれば意外なほど重要なピースだったなんてこともある。
そんな資料を読み進めれば進めるほどルイスの言葉が正しいとわかるほどに、レトラシカ公爵領の収益は寒かった。
念のためと渡された請求書の山も見せられてよりいっそう頭が痛くなる。
これは、思いのほか長期戦になりそうよね……。いろいろとやることが多すぎるわ。
長く続く乾季による水不足に作物不良。魔石鉱山の閉鎖における収入減だけでなく、労働者問題。魔獣被害による消滅集落について。問題は山積みだ。
図書室の机の上に山盛りに載った本の山を見ながら小さく息を吐いていると、最上段から過去の資料を運んできたシータリアが覗き込んで尋ねる。
「大丈夫ですか? アリアージュ様」
両手に一杯、重い本を持っては運んでくれるシータリアには感謝だ。力のないわたしにはとてもできない。
「大丈夫よ。……ねえ、それよりシータリア、今日はあの子を見かけなかったかしら?」
あの子とは白髪の男の子のことだ。あれから何度か屋敷の敷地内で見かけたけれど、そのたびに草やら花やらを持っては口の中に頬ばっていた。
早く何とかして保護してあげないと、お腹を壊すどころか病気になってしまう。
「今日はまだ見ていません。あの子は小さいうえに動きが素早く、気がつかれるとすぐに茂みに隠れて逃げられてしまいますので、そのうち本気で茂みの中まで追いかけてみるつもりです」
「ありがとう。でも無理はしないでね」
「護衛騎士は体力が取り柄ですから。アリアージュ様とは違いますでしょう? あちらのことは私に任せて、得意分野で頑張りましょう」
そう。残念なことにわたしは全く体力がない。しかし幸運なことに、わたしの頭の中には今世と前世の知識が記憶されている。
グリモワールを持たないわたしにとっての唯一にして最大の武器だ。
これがあったからこそ、トリステット殿下からのいきなりの婚約破棄からの追い出しも、レトラシカ公爵家での空気扱いも、気にせずにやってこられた。
だからいつまでもぐだぐだ考えているだけじゃなく、その知識を使ってできることから始めよう。
「うん。そうね、シータリア。一通り調べて考えたのだけれど、まずは水不足の解消かなと思うの。雨を降らせるのを手伝ってくれる?」
「雨、ですか? また無茶を言いますね」
「あなたとわたしのアレがあればなんとかできると思うのよね。むしろあの子を捕まえるよりは楽かもよ?」
検索したものを書き写した紙をチラリと見せた。
魔法で気候を操ることはできない。その定説を知っているルイスは懐疑的な目でわたしを見ている。
自分から手伝ってくれと言っているわりには信頼……というか、そもそもあまり期待をしていない気がする。
「さすがにそれは無理では? あの、それよりも水ならば隣領の商人が……」
口を挟もうとするルイスをまあまあと抑え、わたしはラズも一緒に連れて外に出た。