転生したら捨てられ公爵夫人になったので放置生活を楽しみます~使えない才女ですので、どうぞお気になさらず~
一緒に付いてきたラズは、わたしにもだいぶ慣れたようで、次は何が起こるのかとワクワクしているようだが、まだ半信半疑といった様子のルイスは紙を手に取り黙り込む。
「溜め池を作るのならこの場所が最適なのでしょう? そのためにはルイスの黄グリモワールが必要なの。だけど無理かしら」
「……しかし、本当にこれが使えるんですか?」
「え、ルイス様はまだアリアージュ様の凄さがわかっていないのですか? あれだけの魔法を見ても?」
フッと鼻で笑いバカにするようなシータリアの態度にカチンとしたのか「はあ~?」と言い返すルイス。わたしはふたりをまあまあとなだめる。
その気になったとはいえ、一度も使ったことのない魔法を使えと言われても、すぐに信じ切れないだろう。
どちらかといえば「やってみて」「了解しました」と即答するシータリアが珍しいのだ。
「まずは一度やってみてちょうだい。成功しなくてもそれはわたしが間違っていただけのことでしょ」
「それは、そうですが。……その、アリアージュ様はそれでよろしいのですか?」
「わたし? そうね、そうしたら次の手を考えるだけよ」
少なくともここでは、わたしが失敗しても足をすくいにきたり、あげつらったりするような人はいない。いや、ひとりはいるか。わたしはパメラのにやけた笑い顔を思い出す。
ただそれでも、気にしなければ何度でも挑戦はできるはず。
「じゃあ、さっそく。〝エクスカーベーション〟と唱えてちょうだい」
わたしの言葉で、ルイスは自分のグリモワールを出した。その真ん中に魔法陣を挟み込むと地面に手を当てる。
「……〝エクスカーベーション〟」
ルイスの呪文で、地面がドスンと音を立てた。大きく皿のように削れた穴ができたと思った途端、ムクムクとその周囲の地面が盛り上がり始める。
自分の魔法で溜め池が造られていくにしたがい、徐々にルイスの目も大きく見開いていく。
そうしてルイスの糸目が完全に開ききったところでわたしの溜め池施工魔法は完成した。
「んー、完璧? 設計図どおりにできたみたいね」
溜め池の堤体まで上がり全体を眺める。前世で読んだ本どおりの形になっていることに満足した。
溜め池の設計構造と、土魔法を組み合わせて作った魔法陣は思いのほか上手くいった。
ここまで大掛かりな物は初めて作ったので追々確認が必要になるかもしれないが、取水口だけでなく洪水を予防するための洪水吐も形になっている。
「ルイス? 目が開きっぱなしになっているけれども大丈夫?」
「いや、あ……はは。まさか、こんな……これを、自分が? 碌な魔法も使えなかったのに」
「そうよ。あなたの魔法がこの溜め池を作ったの。よかったわね。これで農業用に水が行き渡れば少しはましになるでしょう。っと、最後にもうひとつ、大事なことがあったわ」
わたしはレトラシカ公爵へ嫁ぐ前に王家からの違約金のひとつとしてもらってきた水の魔石の付いた指輪を溜め池の中に放り込んだ。
もともと魔石好きのトリステット殿下のコレクションのひとつでご自慢の一品だったものを、王妃陛下が強制的に取り上げて渡してくれた。
「じゃあ、シータリア。よろしくね」
「いいんですか、アリアージュ様? あのサイズの魔石を使ってしまっても」
「先行投資だと思うことにするわ。それにあれを見るとトリステット殿下を思い出すから別にいいかな。この際レトラシカ公爵領の役に立ってもらうことにしましょう」
「わかりました。では、遠慮なく。〝グリモワール〟」
シータリアが呪文を唱えて剣を一振りすると、閃光と共に魔石が割れ、そこから水が湧き出してきた。どんどんと湧き出る水は、溜め池を一杯に満たしていく。
水で一杯の溜め池は、深い青に太陽の光が煌めいて、まるでエルヴァン様の瞳の色のように見えた。
余剰の水量は洪水吐からルーブ川跡へと流れていく。立派な水魔石を使用したからしばらくの間は川水を多少は満たせるだろう。
よしよし。あとは取水口から水を通すための水路をちゃんとつくらなければいけないわね。
一応魔法陣は用意してあるが、そこそこの距離を整備しなければならないのでそれは明日以降にした方がいいだろう。なにぶん、土属性の魔法を使えるのがルイスしかいないので負担がかかりすぎる。
「ルイス。次の工程は……って、本当に大丈夫?」
元に戻ったルイスの糸目から、滝のように涙が流れている。
「アリアージュ様っ! ありがとうございます。本当に、こんな……。まさかここまでのことをしていただけるだなんて夢にも思っていませんでした」
「う、うん。いいのよ」
「これで多くの領民がどれだけ助かるか……。エルヴァン様があれほどバカ正直にアリアージュ様のことを拒否したのにもかかわらず、骨を折っていただき感謝しきれません」
「うん? ああ、そうね」
そういえば結構ないい草で拒否された気がする。しかもそれをルイスはすました顔で見ていただけだったわよね、たしか。
「もっと上手に言いくるめてお金だけでも出してもらえればと考えていた自分が浅はかでした」
あ、そう思っていたんだ。まあ、そうよね。
エルヴァン様のあれだけの美貌があれば、婚約破棄されて都落ちした令嬢なら、彼から優しい声をかけられればなんだってしたくなるかもしれない。
実際は優しくもなんともない言葉だったけれど。
「自分は、これから今以上に増してアリアージュ様のお手伝いを真剣にさせていただきたいと思っています。ですので、なにとぞこのレトラシカ公爵領をよろしくお願いします」
うん、うん。ここまで裏側を聞かせてもらったのならあまり気をつかう必要はないかな。
「それなら、さっそく次の工程に移りましょう。ルイス、あなたの魔法にレトラシカ公爵領の行く末がかかっているのよ。頑張りましょうね!」
「はいっ……!」
わたしは感極まったルイスを連れて、彼の魔力が尽きて音をあげるまで水路を作るための掘削魔法の魔法陣を渡し続けてやった。勿論その間、わたしは馬車の中で楽しい読書の時間を過ごさせてもらっておいて。
「溜め池を作るのならこの場所が最適なのでしょう? そのためにはルイスの黄グリモワールが必要なの。だけど無理かしら」
「……しかし、本当にこれが使えるんですか?」
「え、ルイス様はまだアリアージュ様の凄さがわかっていないのですか? あれだけの魔法を見ても?」
フッと鼻で笑いバカにするようなシータリアの態度にカチンとしたのか「はあ~?」と言い返すルイス。わたしはふたりをまあまあとなだめる。
その気になったとはいえ、一度も使ったことのない魔法を使えと言われても、すぐに信じ切れないだろう。
どちらかといえば「やってみて」「了解しました」と即答するシータリアが珍しいのだ。
「まずは一度やってみてちょうだい。成功しなくてもそれはわたしが間違っていただけのことでしょ」
「それは、そうですが。……その、アリアージュ様はそれでよろしいのですか?」
「わたし? そうね、そうしたら次の手を考えるだけよ」
少なくともここでは、わたしが失敗しても足をすくいにきたり、あげつらったりするような人はいない。いや、ひとりはいるか。わたしはパメラのにやけた笑い顔を思い出す。
ただそれでも、気にしなければ何度でも挑戦はできるはず。
「じゃあ、さっそく。〝エクスカーベーション〟と唱えてちょうだい」
わたしの言葉で、ルイスは自分のグリモワールを出した。その真ん中に魔法陣を挟み込むと地面に手を当てる。
「……〝エクスカーベーション〟」
ルイスの呪文で、地面がドスンと音を立てた。大きく皿のように削れた穴ができたと思った途端、ムクムクとその周囲の地面が盛り上がり始める。
自分の魔法で溜め池が造られていくにしたがい、徐々にルイスの目も大きく見開いていく。
そうしてルイスの糸目が完全に開ききったところでわたしの溜め池施工魔法は完成した。
「んー、完璧? 設計図どおりにできたみたいね」
溜め池の堤体まで上がり全体を眺める。前世で読んだ本どおりの形になっていることに満足した。
溜め池の設計構造と、土魔法を組み合わせて作った魔法陣は思いのほか上手くいった。
ここまで大掛かりな物は初めて作ったので追々確認が必要になるかもしれないが、取水口だけでなく洪水を予防するための洪水吐も形になっている。
「ルイス? 目が開きっぱなしになっているけれども大丈夫?」
「いや、あ……はは。まさか、こんな……これを、自分が? 碌な魔法も使えなかったのに」
「そうよ。あなたの魔法がこの溜め池を作ったの。よかったわね。これで農業用に水が行き渡れば少しはましになるでしょう。っと、最後にもうひとつ、大事なことがあったわ」
わたしはレトラシカ公爵へ嫁ぐ前に王家からの違約金のひとつとしてもらってきた水の魔石の付いた指輪を溜め池の中に放り込んだ。
もともと魔石好きのトリステット殿下のコレクションのひとつでご自慢の一品だったものを、王妃陛下が強制的に取り上げて渡してくれた。
「じゃあ、シータリア。よろしくね」
「いいんですか、アリアージュ様? あのサイズの魔石を使ってしまっても」
「先行投資だと思うことにするわ。それにあれを見るとトリステット殿下を思い出すから別にいいかな。この際レトラシカ公爵領の役に立ってもらうことにしましょう」
「わかりました。では、遠慮なく。〝グリモワール〟」
シータリアが呪文を唱えて剣を一振りすると、閃光と共に魔石が割れ、そこから水が湧き出してきた。どんどんと湧き出る水は、溜め池を一杯に満たしていく。
水で一杯の溜め池は、深い青に太陽の光が煌めいて、まるでエルヴァン様の瞳の色のように見えた。
余剰の水量は洪水吐からルーブ川跡へと流れていく。立派な水魔石を使用したからしばらくの間は川水を多少は満たせるだろう。
よしよし。あとは取水口から水を通すための水路をちゃんとつくらなければいけないわね。
一応魔法陣は用意してあるが、そこそこの距離を整備しなければならないのでそれは明日以降にした方がいいだろう。なにぶん、土属性の魔法を使えるのがルイスしかいないので負担がかかりすぎる。
「ルイス。次の工程は……って、本当に大丈夫?」
元に戻ったルイスの糸目から、滝のように涙が流れている。
「アリアージュ様っ! ありがとうございます。本当に、こんな……。まさかここまでのことをしていただけるだなんて夢にも思っていませんでした」
「う、うん。いいのよ」
「これで多くの領民がどれだけ助かるか……。エルヴァン様があれほどバカ正直にアリアージュ様のことを拒否したのにもかかわらず、骨を折っていただき感謝しきれません」
「うん? ああ、そうね」
そういえば結構ないい草で拒否された気がする。しかもそれをルイスはすました顔で見ていただけだったわよね、たしか。
「もっと上手に言いくるめてお金だけでも出してもらえればと考えていた自分が浅はかでした」
あ、そう思っていたんだ。まあ、そうよね。
エルヴァン様のあれだけの美貌があれば、婚約破棄されて都落ちした令嬢なら、彼から優しい声をかけられればなんだってしたくなるかもしれない。
実際は優しくもなんともない言葉だったけれど。
「自分は、これから今以上に増してアリアージュ様のお手伝いを真剣にさせていただきたいと思っています。ですので、なにとぞこのレトラシカ公爵領をよろしくお願いします」
うん、うん。ここまで裏側を聞かせてもらったのならあまり気をつかう必要はないかな。
「それなら、さっそく次の工程に移りましょう。ルイス、あなたの魔法にレトラシカ公爵領の行く末がかかっているのよ。頑張りましょうね!」
「はいっ……!」
わたしは感極まったルイスを連れて、彼の魔力が尽きて音をあげるまで水路を作るための掘削魔法の魔法陣を渡し続けてやった。勿論その間、わたしは馬車の中で楽しい読書の時間を過ごさせてもらっておいて。