転生したら捨てられ公爵夫人になったので放置生活を楽しみます~使えない才女ですので、どうぞお気になさらず~
その後は水路を作る役割をルイスに任せる。
地図どおりによろしくね。と、毎日掘削の魔法陣を持たせて見送ると、レトラシカ公爵家の人々が書き綴ってきた日記を重点的に読み始めた。
この間に一度エルヴァン様がお屋敷に戻ってきたようだったけれど、あいにくと図書室にこもりきりのわたしは会う機会がなかった。パメラもわざとわたしへ伝えにくることもしなかったようだ。
エルヴァン様も息を継ぐ間もなくまたすぐに魔獣退治へと出発してしまった。今度は南西の町からの要請だというが、本当に今年は魔獣の出現率が高くなっているそうだ。
たしか乙女ゲームの〝虹のグリモワール〟の中でも、突然王都に異常発生した魔獣を倒していくミッションがあるらしいので、その影響もあるのかもしれない。
魔獣は魔力を帯びて巨大化した動物で、みさかいなく暴れ回り人を襲う。乙女ゲームのキャラクターにもそんな凶暴な生き物にもわたしは絶対に遭遇したくない。
うん。とても大変とは思うけれど、エルヴァン様にはできるかぎり頑張ってほしいものだ。
そんなことを考えながらわたしは日記を読み進める。
季節の移りから気候の流れ、時事の出来事などたとえ断片的なことばかりでも、集めて比較すればこの公爵領で何が起きてきたのかがわかる。
晩餐のメニューひとつとっても何度も単語が出てくればその時の主食が何であったかなんてものは簡単に想像がついた。
「こうして読んでいると、初代公爵の頃には麦よりもサツマイモの作付けが多かったようなのよね」
サツマイモは乾燥に強く痩せた土地でも育てやすい。十二ヶ月ならじゅうぶん保存も利くし、栄養価も高い。いいことずくめだ。それが麦主体になったのは六十年ほど前から現在の三圃制が確立されたからなのだろう。
これは先々々代あたりの日記にも書かれている。税収として価値の高い麦を推奨したためだ。
確かに休耕地を間に入れた三年周期で作付け場所を変えていく三圃制は効果のある農法だとは思う。
「けれどももっと収穫率をあげる方法があるわよね」
検索バーを出して現代農法について調べる。この世界でできること。そして魔法でどこまで補助できるのかも検索する。
まず三圃制から輪栽式農法への見直しを考えたが、実はこれには大きな障害があった。
休耕地に根粒菌を持つマメ科の植物を植えて、家畜の飼料としながら土地を肥えさせていく四圃制。一見メリットしかないように見えるこの農法は、このレトラシカ公爵領には完全に向いてはいない。
まず、土地はある。公爵邸のある街からほど遠くない場所にはそれなりの土地が。けれどもそれが痩せた土地であり、効能の高い肥料が手に入らないというだけでお手上げなのだ。
大規模な耕作地にたくさんの労働力、そしてそれを継続させる経済力。それらが集まらなければ輪栽式農法は間違いなく失敗する。
そうなるとやはりレトラシカ公爵領には難しい。せめて魔石鉱山が稼働していれば、その費用も捻出できたかもしれないが。
そこまで考えた結果、やはり千里の道も一歩から進むべきだと再確認した。
「土壌改良と新しい作物の植え付けを進めなきゃ」
これについては商人のオビチェにある程度手配済みなので、彼が戻ってくるまでに農業を担っている者たちと話をしなければならない。
シータリアにお願いすると、彼女は図書室の扉を開けて大きな声でルイスを呼んだ。この公爵邸では呼び鈴などは無意味なのだ。
「はい、アリアージュ様」
しかしパタパタと足音を立てながら走ってきたのは侍女のラズだった。
「ルイスにお願いしたいことがあったのだけれど、呼んでもらえる?」
「あの、ルイス様は、今日も水路を作りに行っています」
「ああ、そうだったわね」
掘削魔法はそれほど多くの魔力を必要としない。けれども距離が長いから大変だろうな。
「早くできるといいのだけれど」
はい。と、ラズが目を輝かせながら返事をする。
「アリアージュ様のおかげで川にもだいぶ水が戻ってきました。雨を降らせてくださったこともですが、ルーブ川が形を変えてからというもの水に困っていた私たちを助けてくださって本当にありがとうございました」
「そう。少しは役に立てているようでよかったわ」
「はじめは、今度来られるご領主様の奥様は魔法が使えないからとても意地悪で頭が悪くて婚約者から捨てられたのだって。そんなお方だから、気に入られないことをして殴られないようにとパメラ様から言われていたので少し怖かったのですが、アリアージュ様は全然そんなことがなくてよかったです」
へー、そうですか。そこまで変な話をしているとは思わなかったわ。
「パメラ様はきっと、誰かと間違えているんだと思います」
「そうねえ、たぶんそうなのでしょうね」
悪気のないラズの言葉に、シータリアの眉がピクリと上がった。
どう、どう。今のところそう実害がないので、パメラのことは放っておいていいから。
「けれどもルイスがいないとなるとどうしようかしら……。ラズはこの辺りの農家の代表者が誰か知っている?」
「あ、はい。それならばポルトさんでしょうか。お父さ……父も兄もポルトさんの畑のお手伝いをさせていただいていますし」
「ラズにはお兄さんがいるの?」
「はい。母は体が弱いので家にいますが、男ふたりでポルトさんのところでお世話になっています。こちらのお屋敷を紹介していただいたのもポルトさんの口利きでした」
屋敷に口利きができる立場なら、ポルトとはエルヴァン様やルイスも知っている人物だろう。
ラズの誇らしげな顔で兄のことを語る顔を見ていたら、なんだか自分の妹クリスティアのことを思い出してほんの少し気がめいる。
そういえばあの子、魔法はともかく外国語の授業はさんざんだったけれども、トリステット殿下の執務の手伝いは大丈夫なのかしら? 殿下の執務は外交関係が多いから、外国語や風習がわからないと話にならないのだけれど……。
ふと気になったけれども、まあいいか。
運命の愛とやらでわたしという障害を乗り越えて一緒になっふたりらしいから、きっと殿下もわたしの時のように一方的に押し付けはしないだろう。
「それじゃあ今からポルトさんに連絡を取ってもらえるかしら? ちょっと相談したいことがあるの」
そう言って、両手を合わせた。
地図どおりによろしくね。と、毎日掘削の魔法陣を持たせて見送ると、レトラシカ公爵家の人々が書き綴ってきた日記を重点的に読み始めた。
この間に一度エルヴァン様がお屋敷に戻ってきたようだったけれど、あいにくと図書室にこもりきりのわたしは会う機会がなかった。パメラもわざとわたしへ伝えにくることもしなかったようだ。
エルヴァン様も息を継ぐ間もなくまたすぐに魔獣退治へと出発してしまった。今度は南西の町からの要請だというが、本当に今年は魔獣の出現率が高くなっているそうだ。
たしか乙女ゲームの〝虹のグリモワール〟の中でも、突然王都に異常発生した魔獣を倒していくミッションがあるらしいので、その影響もあるのかもしれない。
魔獣は魔力を帯びて巨大化した動物で、みさかいなく暴れ回り人を襲う。乙女ゲームのキャラクターにもそんな凶暴な生き物にもわたしは絶対に遭遇したくない。
うん。とても大変とは思うけれど、エルヴァン様にはできるかぎり頑張ってほしいものだ。
そんなことを考えながらわたしは日記を読み進める。
季節の移りから気候の流れ、時事の出来事などたとえ断片的なことばかりでも、集めて比較すればこの公爵領で何が起きてきたのかがわかる。
晩餐のメニューひとつとっても何度も単語が出てくればその時の主食が何であったかなんてものは簡単に想像がついた。
「こうして読んでいると、初代公爵の頃には麦よりもサツマイモの作付けが多かったようなのよね」
サツマイモは乾燥に強く痩せた土地でも育てやすい。十二ヶ月ならじゅうぶん保存も利くし、栄養価も高い。いいことずくめだ。それが麦主体になったのは六十年ほど前から現在の三圃制が確立されたからなのだろう。
これは先々々代あたりの日記にも書かれている。税収として価値の高い麦を推奨したためだ。
確かに休耕地を間に入れた三年周期で作付け場所を変えていく三圃制は効果のある農法だとは思う。
「けれどももっと収穫率をあげる方法があるわよね」
検索バーを出して現代農法について調べる。この世界でできること。そして魔法でどこまで補助できるのかも検索する。
まず三圃制から輪栽式農法への見直しを考えたが、実はこれには大きな障害があった。
休耕地に根粒菌を持つマメ科の植物を植えて、家畜の飼料としながら土地を肥えさせていく四圃制。一見メリットしかないように見えるこの農法は、このレトラシカ公爵領には完全に向いてはいない。
まず、土地はある。公爵邸のある街からほど遠くない場所にはそれなりの土地が。けれどもそれが痩せた土地であり、効能の高い肥料が手に入らないというだけでお手上げなのだ。
大規模な耕作地にたくさんの労働力、そしてそれを継続させる経済力。それらが集まらなければ輪栽式農法は間違いなく失敗する。
そうなるとやはりレトラシカ公爵領には難しい。せめて魔石鉱山が稼働していれば、その費用も捻出できたかもしれないが。
そこまで考えた結果、やはり千里の道も一歩から進むべきだと再確認した。
「土壌改良と新しい作物の植え付けを進めなきゃ」
これについては商人のオビチェにある程度手配済みなので、彼が戻ってくるまでに農業を担っている者たちと話をしなければならない。
シータリアにお願いすると、彼女は図書室の扉を開けて大きな声でルイスを呼んだ。この公爵邸では呼び鈴などは無意味なのだ。
「はい、アリアージュ様」
しかしパタパタと足音を立てながら走ってきたのは侍女のラズだった。
「ルイスにお願いしたいことがあったのだけれど、呼んでもらえる?」
「あの、ルイス様は、今日も水路を作りに行っています」
「ああ、そうだったわね」
掘削魔法はそれほど多くの魔力を必要としない。けれども距離が長いから大変だろうな。
「早くできるといいのだけれど」
はい。と、ラズが目を輝かせながら返事をする。
「アリアージュ様のおかげで川にもだいぶ水が戻ってきました。雨を降らせてくださったこともですが、ルーブ川が形を変えてからというもの水に困っていた私たちを助けてくださって本当にありがとうございました」
「そう。少しは役に立てているようでよかったわ」
「はじめは、今度来られるご領主様の奥様は魔法が使えないからとても意地悪で頭が悪くて婚約者から捨てられたのだって。そんなお方だから、気に入られないことをして殴られないようにとパメラ様から言われていたので少し怖かったのですが、アリアージュ様は全然そんなことがなくてよかったです」
へー、そうですか。そこまで変な話をしているとは思わなかったわ。
「パメラ様はきっと、誰かと間違えているんだと思います」
「そうねえ、たぶんそうなのでしょうね」
悪気のないラズの言葉に、シータリアの眉がピクリと上がった。
どう、どう。今のところそう実害がないので、パメラのことは放っておいていいから。
「けれどもルイスがいないとなるとどうしようかしら……。ラズはこの辺りの農家の代表者が誰か知っている?」
「あ、はい。それならばポルトさんでしょうか。お父さ……父も兄もポルトさんの畑のお手伝いをさせていただいていますし」
「ラズにはお兄さんがいるの?」
「はい。母は体が弱いので家にいますが、男ふたりでポルトさんのところでお世話になっています。こちらのお屋敷を紹介していただいたのもポルトさんの口利きでした」
屋敷に口利きができる立場なら、ポルトとはエルヴァン様やルイスも知っている人物だろう。
ラズの誇らしげな顔で兄のことを語る顔を見ていたら、なんだか自分の妹クリスティアのことを思い出してほんの少し気がめいる。
そういえばあの子、魔法はともかく外国語の授業はさんざんだったけれども、トリステット殿下の執務の手伝いは大丈夫なのかしら? 殿下の執務は外交関係が多いから、外国語や風習がわからないと話にならないのだけれど……。
ふと気になったけれども、まあいいか。
運命の愛とやらでわたしという障害を乗り越えて一緒になっふたりらしいから、きっと殿下もわたしの時のように一方的に押し付けはしないだろう。
「それじゃあ今からポルトさんに連絡を取ってもらえるかしら? ちょっと相談したいことがあるの」
そう言って、両手を合わせた。