転生したら捨てられ公爵夫人になったので放置生活を楽しみます~使えない才女ですので、どうぞお気になさらず~
ラズにポルトとの仲介を頼んでから、昼食を取りつつ二時間ほど本を読んでいたら、公爵邸の裏庭に彼らがやってきたと連絡が入った。慌てて裏庭へ続く使用人扉へと向かう。
まさか今日話をしたばかりでいきなり訪ねてくるとは思わなかったので、急ぎながら「早くない?」とシータリアに小声で尋ねると、「それは、アリアージュ様がレトラシカ公爵夫人だからでしょう。領主の奥様の呼び出しに応えない領民はいませんよ。代表ともなる人物ならよけいに」と言われてしまった。
そうか、変に気をつかわれてしまったのね。
申し訳なく思いながら扉を開けて裏庭に出ると、そこには白髪混じりで六十くらいの男性と、ラズと同じ茶色い髪でよく日に焼けたいかにも農家といった体格の良い青年が待っていた。
「お待たせしました。いきなりおよびだてして申し訳ありません」
わたしが彼らに挨拶をすると、随分驚いたように口をあんぐりと開けてこちらを見た。
「あ、あのっ。公爵夫人のお付きの方でしょうか? わしら、夫人から、その、こちらに来るようにと仰せつかりまして……」
え? お付きの方? 一瞬何でと思ったけれど、そういえばこのレトラシカ公爵家へ来てからというもの、王都で着ていたようなゴテゴテのドレスは袖も通さずにいた。
まあ、ああいったドレスは手伝いがなければひとりで着られるものではないし、平民のラズでは着せ方もわからないだろう。
前世を思い出した今となっては自分的にももっと楽で動きやすい服の方が好みだったから、そういったものを好んで着ていたのだ。
知らない人が見れば侍女のお仕着せに見えないこともない。
「あら、いいえ。ポルトさんと、ええともうお一方はラズのお兄さんでよろしいのかしら? はじめまして、わたしがアリアージュ・レトラシカです」
にっこりと笑って手を出すと、ポルトは突然ヒック! と、大きなしゃっくりを出して固まってしまった。
「あの……?」
どうしましたか、とわたしは差しだした手をさらにポルトに向けたが、彼は汗をびっしりとかきながらヒックヒックと引きつけを起こしたみたいに後ろに下がっていってしまう。
隣にいたラズのお兄さんが、それを押さえて「ポルトさん、大丈夫ですか?」と焦っている。
あれ? どうしよう……。これ、わたしが何か、したのかしら?
「誠に申し訳ございません! ……あの、公爵夫人を、お付きの方と間違えるなど……。あの……あってはならないことを……」
「いえいえ、気になさらないでね。顔を上げてちょうだい、ポルトさん。本日はご足労ありがとうございます」
「さ、さ、さん付けなど……! 呼び捨ててくださいませ!」
「ええと、わかったわ。ポルト、よろしくね」
裏庭では話が進められないと、図書室へと入ってもらいあらためて挨拶をした。応接室でもよかったのかもしれないが、どうも自室と図書室以外はわたしが落ち着かないのだ。
ここならわたしが鍵を持っている限り、許可しない人は入れないしね。
「ところでそちらのお名前はなんというのかしら?」
緊張しているポルトから話をそらしてラズのお兄さんに尋ねても、彼はなかなか口を開こうとしない。むしろちょっと睨まれている。
これは、わたしが彼らの農業に口を出すと思われているからかしら?
確かに他所から嫁いできたばかりのわたしが、彼らのすることにいきなり口を出してきたらいい気はしないだろう。
でも、それ以上敵意を向けてくるとなると、わたしの護衛騎士が我慢できずに斬りかかってしまうのだけれども、どうしようか。
結局ポルトから言われて「トランです」とぶっきらぼうに挨拶をした。
その場にいる全員が、トランの態度に納得のいかなそうな顔をしているけれども、わたし自身はそんなことはどうでもいい。それよりもせっかく来てくれたのだからこれからの畑の作付けについて話を進めていきたい。
わたしは地図と用意した紙を机の上に並べると「じゃあこれを見てくれるかしら?」と話し出した。
わたしの考えとして、現状三圃制で作っている作物を変更するつもりがないこと。そして商人のオビチェが仕入れてくる肥料を無償提供するので休耕地やこれから作付けする農地に撒いてしっかりと土作りをしてほしいことをまず伝えた。
今までは一年休ませた休耕地といえども、ここの痩せきった土地ではなかなか収量もあがらないだろう。
それを補うためにも今回は自費でドンと肥料を投入することに決めた。
「あの……これでは、われわれだけが得をして、御領主様にはなにも……」
「うん、そうね。だから、わたしからはひとつお願いがあるの」
その言葉に過剰反応したトランが、いきなりバンッと机を叩いて立ち上がった。
「やっぱり。そんな餌をちらつかせて、俺たちの農地を取り上げようって腹なんだろう! 意地が悪いうえに頭も悪そうな貴族のやることなんてそうに決まっている!」
まさか今日話をしたばかりでいきなり訪ねてくるとは思わなかったので、急ぎながら「早くない?」とシータリアに小声で尋ねると、「それは、アリアージュ様がレトラシカ公爵夫人だからでしょう。領主の奥様の呼び出しに応えない領民はいませんよ。代表ともなる人物ならよけいに」と言われてしまった。
そうか、変に気をつかわれてしまったのね。
申し訳なく思いながら扉を開けて裏庭に出ると、そこには白髪混じりで六十くらいの男性と、ラズと同じ茶色い髪でよく日に焼けたいかにも農家といった体格の良い青年が待っていた。
「お待たせしました。いきなりおよびだてして申し訳ありません」
わたしが彼らに挨拶をすると、随分驚いたように口をあんぐりと開けてこちらを見た。
「あ、あのっ。公爵夫人のお付きの方でしょうか? わしら、夫人から、その、こちらに来るようにと仰せつかりまして……」
え? お付きの方? 一瞬何でと思ったけれど、そういえばこのレトラシカ公爵家へ来てからというもの、王都で着ていたようなゴテゴテのドレスは袖も通さずにいた。
まあ、ああいったドレスは手伝いがなければひとりで着られるものではないし、平民のラズでは着せ方もわからないだろう。
前世を思い出した今となっては自分的にももっと楽で動きやすい服の方が好みだったから、そういったものを好んで着ていたのだ。
知らない人が見れば侍女のお仕着せに見えないこともない。
「あら、いいえ。ポルトさんと、ええともうお一方はラズのお兄さんでよろしいのかしら? はじめまして、わたしがアリアージュ・レトラシカです」
にっこりと笑って手を出すと、ポルトは突然ヒック! と、大きなしゃっくりを出して固まってしまった。
「あの……?」
どうしましたか、とわたしは差しだした手をさらにポルトに向けたが、彼は汗をびっしりとかきながらヒックヒックと引きつけを起こしたみたいに後ろに下がっていってしまう。
隣にいたラズのお兄さんが、それを押さえて「ポルトさん、大丈夫ですか?」と焦っている。
あれ? どうしよう……。これ、わたしが何か、したのかしら?
「誠に申し訳ございません! ……あの、公爵夫人を、お付きの方と間違えるなど……。あの……あってはならないことを……」
「いえいえ、気になさらないでね。顔を上げてちょうだい、ポルトさん。本日はご足労ありがとうございます」
「さ、さ、さん付けなど……! 呼び捨ててくださいませ!」
「ええと、わかったわ。ポルト、よろしくね」
裏庭では話が進められないと、図書室へと入ってもらいあらためて挨拶をした。応接室でもよかったのかもしれないが、どうも自室と図書室以外はわたしが落ち着かないのだ。
ここならわたしが鍵を持っている限り、許可しない人は入れないしね。
「ところでそちらのお名前はなんというのかしら?」
緊張しているポルトから話をそらしてラズのお兄さんに尋ねても、彼はなかなか口を開こうとしない。むしろちょっと睨まれている。
これは、わたしが彼らの農業に口を出すと思われているからかしら?
確かに他所から嫁いできたばかりのわたしが、彼らのすることにいきなり口を出してきたらいい気はしないだろう。
でも、それ以上敵意を向けてくるとなると、わたしの護衛騎士が我慢できずに斬りかかってしまうのだけれども、どうしようか。
結局ポルトから言われて「トランです」とぶっきらぼうに挨拶をした。
その場にいる全員が、トランの態度に納得のいかなそうな顔をしているけれども、わたし自身はそんなことはどうでもいい。それよりもせっかく来てくれたのだからこれからの畑の作付けについて話を進めていきたい。
わたしは地図と用意した紙を机の上に並べると「じゃあこれを見てくれるかしら?」と話し出した。
わたしの考えとして、現状三圃制で作っている作物を変更するつもりがないこと。そして商人のオビチェが仕入れてくる肥料を無償提供するので休耕地やこれから作付けする農地に撒いてしっかりと土作りをしてほしいことをまず伝えた。
今までは一年休ませた休耕地といえども、ここの痩せきった土地ではなかなか収量もあがらないだろう。
それを補うためにも今回は自費でドンと肥料を投入することに決めた。
「あの……これでは、われわれだけが得をして、御領主様にはなにも……」
「うん、そうね。だから、わたしからはひとつお願いがあるの」
その言葉に過剰反応したトランが、いきなりバンッと机を叩いて立ち上がった。
「やっぱり。そんな餌をちらつかせて、俺たちの農地を取り上げようって腹なんだろう! 意地が悪いうえに頭も悪そうな貴族のやることなんてそうに決まっている!」