転生したら捨てられ公爵夫人になったので放置生活を楽しみます~使えない才女ですので、どうぞお気になさらず~
 糸目のルイスから図書室の鍵を渡されてから一週間が経った。
 その間に図書室の向かいに私室を移し、蔵書目録を確認するなど、毎日どっぷりと本に浸かった生活をしている。

「あー、幸せ」

 毎日毎日、好きな時に好きな本を読むことのできる生活の、なんて素晴らしいこと……!
 噛みしめるように呟いていると、後ろから声がかかった。振り向くとわたしの護衛騎士であるシータリアが呆れたようにこちらを見ている。

「アリアージュ様、本当に毎日飽きもせず本にかぶりついていらっしゃいますねえ」
「あら、いいじゃない、シータリア。これも全てエルヴァン様のお望みなのよ。だからわたしは公爵夫人としての仕事を全うしていると言ってもいいわね」
「そんなこと全く思ってもみないくせに」

 口をすぼめるシータリアは、黙っていれば美人の部類に入るが、実際は剣一筋の脳筋だ。
 王立学園落第寸前のところをわたしが助言をして以来、なぜか気が合い護衛騎士を務めてくれるようになり、このレトラシカ公爵家まで一緒に付いてきてくれた。
 彼女はわたしの唯一の友人でもあると言っていい。

「いいのよ、建前万歳。それでお互いが納得できているのだもの」

 エルヴァン様は結婚式の翌日には領内の魔獣被害の連絡を受け、退治へと向かってしまった。なので、あれ以来一度も顔を見ていない。
 それでも幸せだと言い切るわたしに、シータリアは大きく肩を竦める。

「見事にあのぼんくら王子との婚約破棄から人が変わりましたね。吹っ切れましたか? ま、今の性格も嫌いじゃないですけれど」
「ぶっ、ん、っん」

 シータリアの言葉に、思わずむせてしまった。「大丈夫ですか?」の声に、「大丈夫、大丈夫」と答えながらゆっくりと息を吐きだした。
 あー、まだ顔が引きつっているわ。
 シータリアの言葉はあながち間違っていない。半分は正解している。
 そう、確かにわたしの性格は変わってしまった。それもこれも、あの日わたしが前世を全て思い出した時から――。

       ***

 わたしこと、アリアージュは転生者だ。
 元は日本人。サラリーマンの両親とゲーム好きの妹との平凡な四人家族。
 図書館司書の職に就き、趣味は本屋巡り。生粋の本好きであり、人生を本に捧げたいと考えるアラサー女子だった。
 突然の交通事故に巻き込まれそうになった妹を助けたかと思えば、何の因果かこの世界の、ガレミット侯爵家の長女アリアージュとして生まれ変わっていたらしい。
 十二の歳にカロレステーレ王国の第一王子・トリステット殿下の婚約者に選ばれ、十九歳の婚約破棄までを王子妃教育の名の下、家族から離れ王宮で過ごしてきた。
 グリモワールを持たずに生まれ、魔法はいっさい使うことができなかったが、一度読んだ本は全て覚えてしまうという特異な才能が考慮されたのは間違いない。
 それが突然、年明けにおこなわれる王立学園の卒業パーティーの場で、トリステット殿下から婚約破棄を突きつけられた。
 寝耳に水のその暴挙に、悲しみ、呆れ、全てがどうでもよくなってしまったその瞬間、わたしは過去の記憶を思い出したのだ――。
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