転生したら捨てられ公爵夫人になったので放置生活を楽しみます~使えない才女ですので、どうぞお気になさらず~
「アリアージュ・ガレミット。今日をもって俺はお前との婚約を破棄する」
「え……あの、トリステット殿下? それは、いったい……」
壇上からわたしを見下ろし、仲良く寄り添う実妹のクリスティアと婚約者のトリステット第一王子殿下。
わたしの言葉を遮るように殿下が鼻で笑う。
「もともとグリモワールを持てず魔法も〝使えない〟お飾りの女が俺の婚約者になることが間違っていたんだ」
「けれどもそれは、最初からわかっていたことでは。それに、わたしは殿下の補佐を務めております」
わたしが魔法を使えないことは周知の事実だった。しかしそれでも婚約を進めてきたのは、わたしの知識を欲しがった王家、とりわけ王妃陛下からの要請があったと聞いていた。
王族としての執務に難のあるトリステット殿下のために、魔法の才よりも実務を取ったのだ。
だからわたしは王妃陛下の願い通り、ほんの一部の執務官とだけ連絡を取り、殿下の執務の大半を担っていた。けして魔法が使えないからといって蔑まれることなどないはずだ。
しかしそのことも知らされていないトリステット殿下は、さらにわたしをなじる。
「ほんの少し俺の補佐をした程度で偉そうにするな。所詮誰がやってもできることしかしていないだろう」
「お姉様、ごめんなさい。……わたくしが全部悪いの。わたくしがトリス様のことをお慕いしてしまったから……」
「いいや、クリスティアは悪くない。これはもう運命なのだ。ただ俺たちは自分の気持ちに素直になっただけではないか。俺は、心からクリスティアを愛している。それの何が悪い。むしろ俺たちの愛を邪魔する存在こそが悪だろう」
今年卒業のわたしそっちのけで殿下がクリスティアをエスコートしパーティー会場へ入場してきた時から嫌な感じはしていた。
だがまさか、こんなことを言い出すとは夢にも思わなかった。
何が悪いと聞かれても、全てが悪いに決まっているとしか言いようがない。
「それに、クリスティアの氷魔法は誰よりも美しい。この氷の薔薇も彼女が俺のためにと魔法で作り贈ってくれたものだ」
殿下のフロックコートの胸ポケットに挿された氷の薔薇がキラリと光る。
確かに一枚一枚がギリギリまで薄く作られた花弁は、見事な輝きを放っている。この繊細で精密な氷の造形物は魔法とはいえなかなかできるものではない。
周りの参列者からも感嘆の声が漏れ聞こえる。
クリスティアはそれに応えるようにニコリと笑顔を振りまいた。
わたしもクリスティアの魔法の才は認めている。だが彼女の魔法は美しい氷の造形物を作るということだけに注がれていた。
けれども、ただそれだけでクリスティアは両親から溺愛され、わたしは魔法が使えないのだから周りの言うことは何でも聞きなさいと言われ続けた。それしかできないのだから、と。
周囲に隠れ、殿下の執務を担っている今でもずっと。
「俺の新しい婚約者はこのクリスティアだ。彼女こそが俺にふさわしい」
そんなトリステット殿下の一方的な宣言が耳を通り過ぎると、なんだか全てがどうでもよくなってしまい天井を見上げた。
卒業パーティー会場でもある王立学園大ホールには、女神ルメルシェティアを中心に七色のグリモワールが天井画として描かれていた。
この世界の者ならば必ず一度は目にしたことのある伝説の画。
それなのに、なぜかその時は奇妙な既視感に襲われた。
……わたし、これ。ここではない、どこかで見たことがある……。
瞬間、わたしの頭の中からサッと霧が晴れる。そしてそれと同時に一気に記憶が蘇ってきた。
日本での生活。家族との会話。司書としての仕事。今まで読んできた本の数々。そして――。
……あれ。わたし、この世界を知っているわ。
――カロレステーレ王国。王立学園。魔法。女神ルメルシェティア。そして魔術書。
まさか、〝虹のグリモワール〟……!? 妹の大好きな乙女ゲームの設定じゃない!
嘘っ。わ、わたし、乙女ゲームの中に転生してしまったの?
「え……あの、トリステット殿下? それは、いったい……」
壇上からわたしを見下ろし、仲良く寄り添う実妹のクリスティアと婚約者のトリステット第一王子殿下。
わたしの言葉を遮るように殿下が鼻で笑う。
「もともとグリモワールを持てず魔法も〝使えない〟お飾りの女が俺の婚約者になることが間違っていたんだ」
「けれどもそれは、最初からわかっていたことでは。それに、わたしは殿下の補佐を務めております」
わたしが魔法を使えないことは周知の事実だった。しかしそれでも婚約を進めてきたのは、わたしの知識を欲しがった王家、とりわけ王妃陛下からの要請があったと聞いていた。
王族としての執務に難のあるトリステット殿下のために、魔法の才よりも実務を取ったのだ。
だからわたしは王妃陛下の願い通り、ほんの一部の執務官とだけ連絡を取り、殿下の執務の大半を担っていた。けして魔法が使えないからといって蔑まれることなどないはずだ。
しかしそのことも知らされていないトリステット殿下は、さらにわたしをなじる。
「ほんの少し俺の補佐をした程度で偉そうにするな。所詮誰がやってもできることしかしていないだろう」
「お姉様、ごめんなさい。……わたくしが全部悪いの。わたくしがトリス様のことをお慕いしてしまったから……」
「いいや、クリスティアは悪くない。これはもう運命なのだ。ただ俺たちは自分の気持ちに素直になっただけではないか。俺は、心からクリスティアを愛している。それの何が悪い。むしろ俺たちの愛を邪魔する存在こそが悪だろう」
今年卒業のわたしそっちのけで殿下がクリスティアをエスコートしパーティー会場へ入場してきた時から嫌な感じはしていた。
だがまさか、こんなことを言い出すとは夢にも思わなかった。
何が悪いと聞かれても、全てが悪いに決まっているとしか言いようがない。
「それに、クリスティアの氷魔法は誰よりも美しい。この氷の薔薇も彼女が俺のためにと魔法で作り贈ってくれたものだ」
殿下のフロックコートの胸ポケットに挿された氷の薔薇がキラリと光る。
確かに一枚一枚がギリギリまで薄く作られた花弁は、見事な輝きを放っている。この繊細で精密な氷の造形物は魔法とはいえなかなかできるものではない。
周りの参列者からも感嘆の声が漏れ聞こえる。
クリスティアはそれに応えるようにニコリと笑顔を振りまいた。
わたしもクリスティアの魔法の才は認めている。だが彼女の魔法は美しい氷の造形物を作るということだけに注がれていた。
けれども、ただそれだけでクリスティアは両親から溺愛され、わたしは魔法が使えないのだから周りの言うことは何でも聞きなさいと言われ続けた。それしかできないのだから、と。
周囲に隠れ、殿下の執務を担っている今でもずっと。
「俺の新しい婚約者はこのクリスティアだ。彼女こそが俺にふさわしい」
そんなトリステット殿下の一方的な宣言が耳を通り過ぎると、なんだか全てがどうでもよくなってしまい天井を見上げた。
卒業パーティー会場でもある王立学園大ホールには、女神ルメルシェティアを中心に七色のグリモワールが天井画として描かれていた。
この世界の者ならば必ず一度は目にしたことのある伝説の画。
それなのに、なぜかその時は奇妙な既視感に襲われた。
……わたし、これ。ここではない、どこかで見たことがある……。
瞬間、わたしの頭の中からサッと霧が晴れる。そしてそれと同時に一気に記憶が蘇ってきた。
日本での生活。家族との会話。司書としての仕事。今まで読んできた本の数々。そして――。
……あれ。わたし、この世界を知っているわ。
――カロレステーレ王国。王立学園。魔法。女神ルメルシェティア。そして魔術書。
まさか、〝虹のグリモワール〟……!? 妹の大好きな乙女ゲームの設定じゃない!
嘘っ。わ、わたし、乙女ゲームの中に転生してしまったの?