転生したら捨てられ公爵夫人になったので放置生活を楽しみます~使えない才女ですので、どうぞお気になさらず~
「ありがとう、ラズ。じゃあ、ベッドの横にでも置いておいてくれる? もう少しここで本を読んだら、あとでするからいいわ」
ラズは公爵家からわたしのために用意された専属侍女だ。茶色の髪と目をした小鳥のような素朴な平民の少女に、優しく声をかける。
最初の対面では緊張しながら奥様と呼んでくれていたけれども、公爵家の奥様としての仕事を全くするつもりのないわたしにとって、酷くむず痒い気持ちがするだけだった。だからわたしから名前で呼んでくれとお願いした。
酷く恐縮し固辞していたが、ほぼ命令のような形で頼み込んだおかげで、今では屋敷中のほとんどがわたしのことを奥様と呼ばなくなった。よかった、よかった。
「えっ、でも。そ、それは……あの、私がやります」
「いいのよ。わたしもシータリアもその程度自分でできるから、他のお仕事をやってらっしゃいな」
本来ならば公爵夫人に付けられる専属侍女が平民なのはあり得ない。男爵令嬢か子爵令嬢が付くべき立場だ。
一応レトラシカ公爵家には侍女頭としてパメラという子爵令嬢が働いている。侍女頭のわりに見た目が随分と若いと感じていたら、彼女はエルヴァン様やルイスとほぼ同年代だそうだ。
わたしのことを率先して名前呼びしたのも彼女である。ただしなぜか彼女はわたしのことをお嬢様と呼ぶけれど。
本来ならパメラがわたしの面倒をみるのが筋だと思うのだが、自分は公爵家の侍女を管理しなければならない立場なのでと、鼻であしらうようにして平民のラズを紹介された。
「アリアージュお嬢様にはご不便をおかけして申し訳ありませんが、広い心を持ってくださると嬉しいですわ」
まあ、王子殿下から一方的に婚約破棄されて捨てられた令嬢など奥様とも思わず、敬意を払う必要がないと思われているのだろう。
こんな嫌みな人を相手するのも煩わしいので、こちらこそ遠慮させてもらいたい。
「人手が足りないでしょう? どうせわたしは本を読んでいるだけだし、手の空いた時にやるわ」
そう。このレトラシカ公爵邸では、本当に全くと言っていいほどに人手が足りていない。
これだけはパメラの言うことも間違ってはいなかった。
ルイスのように下位貴族の男性侍従やお抱え騎士などはそれなりにいるのだが、屋敷内を整える人材の多くは領内の住人たちの手を借りているのだった。おかげで清潔に保たれているものの、貴族邸としての華は全くない。
それもこれも前公爵が亡くなった後、前夫人が静養の名の下に子どもを連れて実家へ戻ってしまった時に、ほとんどの侍女が彼女についていってしまったからだという。
まだ年若いパメラが侍女頭になるほどなので、そこはお察しだ。
どうりで建屋は豪華な造りなのに、中はシンプルだと思ったのよね。
家政を担当する役目がパメラでは、公爵家を上手く仕切るのは難しいだろう。
「でも……」
それでも断ろうとする小さく細いラズの手から、シータリアがシーツを受け取った。
「いいから行きなさい。この程度ならアリアージュ様でもじゅうぶんできます」
「は、はい」
シータリアの圧に負けたラズが廊下をパタパタと走っていく。そこは自分でもできる、じゃないんだと思いながら、わたしはふうっと息を吐いた。
初めてこのお屋敷に入った時、若干の違和感があった。でも、それは突然の結婚で自分があまり歓迎されていないこともあるのだと思っていた。エルヴァン様のあの台詞もそういう気持ちから出たものだと。
でもそれだけではなくて……。
「本当に、このレトラシカ公爵領って……ねえ、シータリア」
「はい。アリアージュ様」
「――お金、ないのね」
ラズは公爵家からわたしのために用意された専属侍女だ。茶色の髪と目をした小鳥のような素朴な平民の少女に、優しく声をかける。
最初の対面では緊張しながら奥様と呼んでくれていたけれども、公爵家の奥様としての仕事を全くするつもりのないわたしにとって、酷くむず痒い気持ちがするだけだった。だからわたしから名前で呼んでくれとお願いした。
酷く恐縮し固辞していたが、ほぼ命令のような形で頼み込んだおかげで、今では屋敷中のほとんどがわたしのことを奥様と呼ばなくなった。よかった、よかった。
「えっ、でも。そ、それは……あの、私がやります」
「いいのよ。わたしもシータリアもその程度自分でできるから、他のお仕事をやってらっしゃいな」
本来ならば公爵夫人に付けられる専属侍女が平民なのはあり得ない。男爵令嬢か子爵令嬢が付くべき立場だ。
一応レトラシカ公爵家には侍女頭としてパメラという子爵令嬢が働いている。侍女頭のわりに見た目が随分と若いと感じていたら、彼女はエルヴァン様やルイスとほぼ同年代だそうだ。
わたしのことを率先して名前呼びしたのも彼女である。ただしなぜか彼女はわたしのことをお嬢様と呼ぶけれど。
本来ならパメラがわたしの面倒をみるのが筋だと思うのだが、自分は公爵家の侍女を管理しなければならない立場なのでと、鼻であしらうようにして平民のラズを紹介された。
「アリアージュお嬢様にはご不便をおかけして申し訳ありませんが、広い心を持ってくださると嬉しいですわ」
まあ、王子殿下から一方的に婚約破棄されて捨てられた令嬢など奥様とも思わず、敬意を払う必要がないと思われているのだろう。
こんな嫌みな人を相手するのも煩わしいので、こちらこそ遠慮させてもらいたい。
「人手が足りないでしょう? どうせわたしは本を読んでいるだけだし、手の空いた時にやるわ」
そう。このレトラシカ公爵邸では、本当に全くと言っていいほどに人手が足りていない。
これだけはパメラの言うことも間違ってはいなかった。
ルイスのように下位貴族の男性侍従やお抱え騎士などはそれなりにいるのだが、屋敷内を整える人材の多くは領内の住人たちの手を借りているのだった。おかげで清潔に保たれているものの、貴族邸としての華は全くない。
それもこれも前公爵が亡くなった後、前夫人が静養の名の下に子どもを連れて実家へ戻ってしまった時に、ほとんどの侍女が彼女についていってしまったからだという。
まだ年若いパメラが侍女頭になるほどなので、そこはお察しだ。
どうりで建屋は豪華な造りなのに、中はシンプルだと思ったのよね。
家政を担当する役目がパメラでは、公爵家を上手く仕切るのは難しいだろう。
「でも……」
それでも断ろうとする小さく細いラズの手から、シータリアがシーツを受け取った。
「いいから行きなさい。この程度ならアリアージュ様でもじゅうぶんできます」
「は、はい」
シータリアの圧に負けたラズが廊下をパタパタと走っていく。そこは自分でもできる、じゃないんだと思いながら、わたしはふうっと息を吐いた。
初めてこのお屋敷に入った時、若干の違和感があった。でも、それは突然の結婚で自分があまり歓迎されていないこともあるのだと思っていた。エルヴァン様のあの台詞もそういう気持ちから出たものだと。
でもそれだけではなくて……。
「本当に、このレトラシカ公爵領って……ねえ、シータリア」
「はい。アリアージュ様」
「――お金、ないのね」