ロマンスに、キス
「まじでこれ食うの? 無理」
後ろの席から、低くて、遠慮のない声が聞こえた。
「お願いだから、今日一日だけ付き合ってよ。そしたら諦めるから」
背中に、冷たいものが走る。
ガチャン、と嫌な音がして、手元からナイフが滑り落ちた。
床に落ちる音が、やけに大きく響く。
慌てて立ち上がろうとして、パンツにべったりとクリームが付いたのが視界に入った。
白。
最悪。
それ以上に。
心臓が、変な鳴り方をしている。
「大丈夫? 新しいの、もらおうか」
優くんの声が、少しだけ遠くに聞こえる。
視線は、まだ床に落ちたナイフのあたりに縫い止められたまま。
「……へ?」
間の抜けた声が、自分の口から出た。
「ナイフ、もらうね」
「あぁ、うん、ありがと」
言葉はちゃんと返しているのに、心臓だけが、明らかにおかしい。
どくん、じゃなくて、ぎしっ、って音がするみたいに、嫌な鳴り方をし始める。