ロマンスに、キス



「ご、ごめんね。車だったね」



ヘラっと、力の抜けた笑顔を作る。ちゃんと、かわいい角度で。


それを見て、優くんはほっとしたように表情を緩めた。安心した顔。何も問題がなかったことにしたい顔。


優くんは、何も聞かない。
どうしたの、とも。さっきの人、知り合い?とも。なんで泣きそうだったの?とも。


聞いてこない。


……だからといって、あたしのほうから話すことも、ない。


優くん相手には。



だって。
佐野、じゃないから。


佐野じゃないと、意味がない。
佐野じゃない人に話したところで、きっと、優しく慰められるだけで終わる。


それが、欲しいわけじゃない。


佐野だけだから。

私の話を、最後まで聞いてくれたのは。
かわいくないあたしの言葉を、途中で遮らなかったのは。


佐野だけに、わかってほしい。
佐野だけが、あたしのことを知ってくれていればいい。


それでいい。

……そうじゃないと、困る。


< 111 / 117 >

この作品をシェア

pagetop