ロマンスに、キス



車に乗り込んで、シートに深く身を沈める。

エンジン音がして、ゆっくり走り出す。


あたしは窓の外に視線を逃がして、バッグからのど飴を取り出した。


コロコロ、と口に放り込む。舌の上で、転がす。


ミント味。冷たくて、少し苦い。


おいしくない。なのに、やめられない。



コロコロ、コロコロ。


気づいたら、癖になっていた。
癖になってしまうくらい、時間が経ってしまった。



あの日から、佐野には会っていなかった。というか、屋上に行かなければ、佐野と顔を合わせることなんて、ほとんどないんだ、今さらそんな当たり前のことに気づいた。



今までが、ただの偶然だった。たまたまが、いくつも重なっただけ。
たったひとつ、歯車がずれただけで、全部、あっけなく崩れる。関係なんて、そんなものなんだ。



今日だって、本当は会いたくなかった。

声が聞けて嬉しいなんて、思うわけがない。

久しぶりに顔を見て、胸が苦しくなるなんて、ありえない。



あたし以外の女と一緒にいるのが気に食わなくて、マウントを取ろうとするなんて、そんなの、あたしらしくない。



……はずだった。


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