ロマンスに、キス



「勝手にキスしてきたあんたに、そんな言い方されたくないんだけど。強制わいせつ罪だから、あれ」



言い切る。一切、引く気はない。


――許さない。絶対に。


こんなやつに、上目遣いなんて使う価値もない。媚びる意味も、可愛く見せる理由も、何ひとつない。



「うるせーな。キスなんて減るもんじゃねーんだから、一回くらい、いーだろ」



あまりにも、価値観が違いすぎて、一瞬、言葉を失う。

この男には、常識という機能が搭載されてないの?

初対面でキスする人間なんて、普通はいない。それが“ダメなこと”だって、説明されなくても分かるはずなのに。

そんな、当たり前のことすら理解できないなんて。



「うるさかったんだよ」



吐き捨てるみたいに言ってから、彼は続ける。



「せっかく、朝配信されたMV見てたのに」



……理由が、酷すぎる。

あまりに酷すぎて、一瞬、本気なのか冗談なのか分からなくなる。

MV?

思考が追いつかない。意味が分からなすぎて、怒りより先に、笑いが込み上げそうになる。

……いや、笑えない。

睨みつけると、彼もまったく同じ強さで睨み返してきた。


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