ロマンスに、キス



「うんっ、楽しみ!」



わざと、ほんの少しだけ高めの声。
語尾をやわらかくして、笑顔も忘れない。
そうすると案の定、優くんは嬉しそうに目を細める。



「やっぱ一千華ちゃん、かわいいね」



――ほら。

胸の奥で、小さく頷く自分がいる。
こうして、すぐに甘い言葉をくれる人が、私は好きだ。
かわいいって言われて、肯定されて、それだけで、ちゃんと価値がある気がするから。

運転も丁寧で、スピードを出しすぎることもない。
信号のたびにブレーキは静かで、車内が揺れない。
移動中の会話も途切れなくて、沈黙なんてほとんどない。


あたしが話せば、

「それでどうなったの?」
「わかる、それ」
「一千華ちゃん、面白いね」

って、相槌を打ってくれる。


あたしは、相手が喜びそうな話題を選んで、ちょうどいいテンポで言葉を返す。
相手が求めている“私”を、きちんと演じる。


……こういう人が、あたしには合っている。


優しくて、気を遣ってくれて、あたしを否定しないで、持ち上げてくれる人。
安心できて、傷つく心配がなくて、ちゃんと「かわいい」でいられる場所。


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