転生した赤ちゃん皇女さまは家族のために暗躍します~冷酷皇帝一家の天才幼女がどんな事件も解決でしゅ!~

16.秋になって

 濡れネズミになりながら、私とモナックは寝室に帰還していた。

 最後、下の階の彫像に飛び降りたのは賭けだったけれど……アレがないと神秘性が生まれない。
 もとい、正体を明かして帰るわけにはいかないのでアレしかなかった。

 種明かしをすれば簡単なことだ。
 綱を一階下の彫像にくくりつけ、三階で無貌の賢者を彫像の上で演じる。

 動きの元はモナックと私なのでかなり人間離れしていただろうけど。
 そして頃合いで眼球発光の魔法を使い、布やマントをすぐしまってジャンプ。

 二階の彫像に降り立ち、様子を見て撤収……というわけだ。

(ふふっ、スパイ映画そのままでしゅね……!)

 私はタオルでモナックを拭き、ブラシをかけていた。

『……あんにゃので上手くいくにゃん?』

『物は試しでやってくれれば、結果は出ると思うでしゅ』

 駄目ならソーニャ経由でも無貌の賢者論法を使えばいい。
 まぁ、シャルウッドなら多分大丈夫だろうとは思っているけれど。

 彼は思慮深く、体調不良に悩んでいる。
 特定の食べ物を避けて改善するというのは試しやすく、やってみるだろう。

『にしてもラミリアちゃんは結構ハチャメチャにゃ。終わってみると、とんでもないことをやってるのにゃん』

『……ごめんでしゅ、巻き込んで』

 モナックの背中の毛をもふもふに戻しながら答えると、モナックが瞳を輝かせながら前脚をぴょんと掲げた。

『でも、めちゃくちゃ面白いにゃん!』
『でしゅよねー!』

 むぎゅーっと私はモナックを抱きしめる。
 もう彼女のことはしっかりとわかるのだ。

 私も……大変ながら、この世界を楽しみつつあった。
 やっぱり飛んだり跳ねたりできるなら、有効活用しなくちゃね!

◆

 真夏の暑さがやや過ぎ去り、秋が近付いてきた。
 今日のカミルの公務は珍しく休み。

 もしかすると丸一日休みなのは初めてかもしれない。

「にゃんにゃーん」

「ちょっとぷにってきたかしら」

 カミルはソファーの上で寛ぎながら、モナックを揉み揉みしている。
 カミルの撫でテクはかなりのものだそうで、モナックはされるがままになっていた。 

「お食事を減らしますか、皇妃様」

「うーん……でもこの子は抑制しても他で食べてきてしまうわ」

「にゃん!」

「運動させるほうがいいかもね。何か良さそうな玩具を買ってきて」

「承知いたしました」

 そこでカミルは両手でモナックを持ち上げて、お腹に顔を埋めた。

 ……吸っている。カミルはたまにこうする時があるのだ。
 私もモナックを吸っているけど。

「ふぅ、シャルウッドの様子はどう?」

「劇的に体調不良の回数が減ったようでございます」

「桃を食べなくなったと聞いた時は何事かと思ったけれど……」

 あれからシャルウッドは私たちのアドバイスを聞いて、薔薇科の食べ物を避けてくれているようだ。

 まぁ、最初はきっと半信半疑だったろうけれど。
 でもアレルギーは摂取する機会が減れば症状を避けられる。

(仮説が合っていて良かったでしゅ)

 私はベビーベッドで余裕の寝転びモードであった。
 これでシャルウッドの病弱なのは変わり、様々なことが連鎖していくだろう。

「シャルウッド様も体調が安定されたことに喜び、色々と前向きになられているとか」

「本当に喜ばしいわ。今までは彼の体調を考えて、皇宮で会っていたけれど……これからは出かけられるかしら」

「きっと大丈夫かと」

 で、私も家族と一緒にいる機会が増えまして。
 数日後、家族全員で初秋の祭りに出ることになった。

 収穫の秋を祝うお祭りだ。まだ八月下旬で暑い日がそこそこ続くけれど。

 でも歴史ある祭事ということで、帝都自体が盛り上がっているのがわかる。
 オレンジ色の布が皇宮全体に彩りを添え、彫像の前に稲が添えられていた。

 窓から見ると、布製の風船が紐に繋がれて浮かんでいる。
 私たちが訪れたのは皇宮北の大公園だった。

「華やかでしょう、ラミリア」

「きゃっ、あうっ!」

 ここは二代目のヘイラル皇帝が整備したという由緒ある公園だ。

 広大な敷地には整備された道、美しい芝生と樹木が並ぶ。
 博物館や植物園も併設されており、市民の憩いの場だ。

(上野公園みたいなもんでしゅね)

 今日の日差しは柔らかくて過ごしやすい。
 私たちはここで式典に参加するわけだ。

 まだ樹木は紅葉には程遠いのだが、ほんのりと葉が落ちている。
 遠くから太鼓の重低音が聞こえてきていた。

「にゃうーん」

 モナックはベビーカーの下のスペースでむにゃむにゃしている。
 私は前世に目覚めてから初めての外出でテンションが上がっていたけれど、モナックはそうではないらしい。

『もう何十回も見てきたのにゃ。ふにゃ……』

『なるほどでしゅね……』

 さすが猫っぽい精霊。人とは尺度が違う。
 で、シャルウッドとボルツは私の左隣を歩いていた。

「兄上、体調は大丈夫そう?」

「かなり安定しているよ。ほら」

「おー、肉がついてる……!」

 シャルウッドが腕を曲げてみせる。

 以前の細すぎたシャルウッドに比べると、そこそこ健康的な太さになっていた。
 このまま行けばもっとたくましくなりそうだ。

「ボルツのほうは、あの黒い飲み物をまだ飲んでるの?」

「飲んでないよ。まだ手に入らないんだ。そろそろ入荷するらしいんだけど」

 あまり賛成でなさそうなシャルウッドにボルツは能天気に返事する。
 あのコーヒーはシェパード王国の管理物資らしく、手に入れるのに苦労するのだとか。

(そのほうが好都合でしゅけどね……)

 後ろではカミルとレインが話をしながら歩いていた。
 耳に魔力を集中させながら、ちらちらと後ろを確認する。

「ご一緒できて嬉しいですわ」
「うむ……」

 レインは答えながらも手に持った書類から目を外さない。

 仕事人間というか、何というか……でも国を動かすのが皇帝だ。
 仕事をしないよりはよほどいいか。

「今年の収穫は例年通り。市民の生活に心配はなさそうだ」

「何よりでございますね」

 カミルとレインの距離は……うーん、前よりは近付いてるのだろうか。

 でもカミルがすすっと近寄ってもレインは逃げない。
 腕を取ったりというわけではないが……。

 祭事の会場は大人数でごった返していた。
 私たちは護衛に囲まれながら、会場の前に躍り出る。

「皇帝陛下、万歳ーー!!」

「ヘイラル皇帝に栄光あれー!」

 市民は万雷の歓呼と拍手で出迎えてくれる。

 これだけの市民が待ってくれているというので、私も胸が熱くなった。
 皇宮の外にも帝国に住まう民がたくさんいるのだ。

 とはいえ式典での私の役割は特にない。にこにことしながら周囲を見守るだけだ。

 式典自体は小一時間ほど。神に捧げる合唱やら勲章授与やら……。
 式典の終了直後、楽屋のテントに戻ると何やら文官が慌ただしくやって来る。

「陛下、少しよろしいでしょうか」

「なんだ?」

 家族の輪から離れてレインと文官が小声で話し始める。

「また密輸品の件で……流入量が増えております」

「封鎖しているはずだろう」

「どこからか情報が洩れているらしく。シェパード王国からも緊急の苦情が」

「……わかった、すぐに行く」

 また密輸品の件か。前もそんなことがあった気がするのだけれど。
 レインは家族に用を伝え、ひとり早く帰っていった。

 カミルがぽつりと呟く。

「陛下は本当にお忙しいわね……」

「お母様、もしかしてシェパード王国の件でしょうか?」

「恐らくは。最近、陛下がずっと頭を悩ませていますから」

 カミルが首を振ると、ボルツがぱしっと拳を鳴らした。

「僕たちにもできることはないんでしょうかね」

「あなたたちはまだ若いわ。今は勉学に精を出しなさい」

「はぁーい……」

 窘められたボルツが唇を尖らせる。
 こうして初秋の祭典が終わり、日々が過ぎていく。

 しかしとりあえず、運命は変わってきているのだ。
 私のぷにっとハンドとモナックの肉球ハンドによって……!
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