転生した赤ちゃん皇女さまは家族のために暗躍します~冷酷皇帝一家の天才幼女がどんな事件も解決でしゅ!~

17.闇から闇へ

 九月に入るとさらに私の魔法の腕は上昇し、皇宮だけではなく夜のお散歩にも出かけるようになっていた。

 不用心なのかもしれないが、今の私は魔力ありならスーパー幼児である。
 指一本で倒立も余裕なのだ……!

『何の意味があるのにゃ、それ』

『強そうでしゅ』

『数十人に囲まれても余裕なのににゃ? よくわからないのにゃ』

『一瞬で強く見せるテクニックというもので――』

 私たちはテレパシーで会話しながら、皇宮北の大公園をお散歩していた。
 ここは夜間立ち入り禁止なので、のびのびとお散歩ができるのだ。

 芝生をぽふぽふ歩きながら秋風を受け、星を見上げる。
 やるべきことはまだあるけれど、色々と変わりつつあるのを実感する。

「みゃー」「にゃーう」

 茂みの向こうから鳴き声がして、猫の集団がやってきた。

 二十匹くらいいるだろうか。
 彼らは帝都周辺の顔役らしく、時たまモナックの元に来るのだ。

 猫ちゃんたちが私たちの前に来たので、挨拶する。

「だう、だぁっー」(こんばんわでしゅー)
「「みゃーっ!」」

 猫ちゃんたちが一斉にお辞儀する。なんて可愛い。
 すりすりと寄ってくる猫ちゃんに囲まれ、もふっと幸せだ。

「にゃーん」(毛並みが整っていて、何よりにゃ)

 モナックはどーんと威厳ありげに周囲を見渡す。

 それからにゃーにゃーと猫ちゃんたちがモナックと話し始めた。
 残念ながら私に猫語はわからないので、後でモナックから説明を聞くしかないのだけれど。

 でも普段は「今年の魚は美味しい」とか「ブラシが壊れて新品を探してる」とか、そんな話しかしていない……らしい。

 いや、それでも猫ちゃんの会話に参加したい……。
 と、三毛猫の頭を撫でている私を横目にモナックがにゃーんと首を傾げた。

『最近、妙な連中が馬車で王都北によく来ているらしいにゃん』

『妙な連中……?』

『この国ではあんまり嗅がない匂いをさせてるみたいにゃ。しかも人目につかないよう、深夜ににゃ』

 モナックの言葉に私はピンときた。
 猫は嗅覚が鋭い。そんな猫があまり嗅いだことのない匂いをさせている……。

『王都の人じゃないんでしゅよね?』

「みゃうみゃう」

『近くで見ていたら石を投げられたらしいにゃ』

『なんでしゅと……!』

 よしよしとモナックがその猫を撫でて慰める。

 ヘイラルでは猫は神聖な動物で、そんなことをする人がいるとは。
 しかも深夜であればとてつもなく怪しい。

『……その人たちが次に来そうな日とかわかりましゅか?』

『間隔からするとちょうど五日後くらいが怪しいらしいのにゃ。ラミリアちゃん、手があるのにゃん?』

『はいでしゅよ』

 答えながら、私はずいっと猫ちゃんを見渡した。

『こういう時こそ、偉い人の出番でしゅ!』



 五日後の夜。私とモナックは再び、皇宮北の公園に来ていた。

 ちなみにひとりではない。ソーニャも一緒だ。
 事の次第を説明し、人を手配してもらったのである。

「しかし、まさか深夜のお散歩の裏でこのようなことを考えておられたとは……」

『あたしも母上を助けたいんでしゅ!』

 私は空中に魔法で文字を書きながら、ソーニャに説明する。

「ええ、ラミリア様の実力も知性もソーニャめは重々承知しております。実家の伯爵家の伝手で信頼できる人を集めました。問題は……その怪しい者らを捕捉できるかどうか」

 私たちの前には、この前の猫ちゃんが並んでいた。
 数十の猫ちゃんのにゃーにゃーという鳴き声をモナックは聞き分け、ふんふんと頷いている。

『大体のエリアは絞り込めているのにゃ。あとはラミリアちゃんの言った、なんにゃ?』

『ローラー作戦でしゅ』

『それにゃ。そのローラー作戦とかいうので見つけるにゃ。早速、作戦開始なのにゃー!』

 そして猫ちゃんが散って、小一時間ほど経過しただろうか。
 一匹の三毛猫がとことこと帰ってきた。

「みゃー」

『にゃっ! 例の怪しい連中を見つけたらしいにゃ!』

『どこどこ!?』

『北西ヘイラル橋にゃ。ちょっと離れてるのにゃ』

 その橋はここから北西、込み入った路地と区画を抜けた先にあるはず。

 猫ちゃんなら苦もなく行き来できるが、人が行くには時間がかかる。
 ちんたらしていたら逃げられてしまうだろう。

「猫様はなんと……?」

「だあっ! あうっ!」(北西ヘイラル橋でしゅ! 先に行っているでしゅよ!)

「ラミリア様っ!?」

 ソーニャに文字で伝えた私は、三毛猫とモナックを抱えて――猛然とダッシュして、飛んだ。

 地上から五メートルほどの高さをムササビのようにすーっと……!
 これぞ今回のために習得した飛行魔法!

「だーっ!」(レッツゴー!)


 行動は素早く、躊躇しないように。
 スパイ映画の主人公はいつもそうだ。

 私は公園をあっという間に横切り、入り組んだ帝都の屋根から屋根を飛び移る。

「みゃうーん!」

『今度はあそこの赤い屋根の家までにゃん!』

『あいでしゅよー!』

 深夜の帝都を一歳児と猫が飛ぶ。
 ぴょーん、ぴょーん……ふふっ、これは楽しい。

『にゃぁぁーーん!』
「みゃあぁーん!」

 モナックも三毛猫も面白がってくれている。

 赤い屋根の家から今度は小さな塔に張りつき、さらに私たちは進む。
 ショートカットの連続で滑空し、ほんの十数分で現場の橋に到着した。

 北西ヘイラル橋はさほど大きな橋ではなかった。
 馬車がぎりぎりすれ違いできる程度の幅しかない、石造りの橋である。

 私たちはすちゃっと近くの茂みに隠れて……。

「みゃー……」

 三毛猫ちゃんが橋のたもとを前脚で指す。
 じーっと視力を強化して暗闇に目をこらすと……見つけた。

 中型の馬車が二台並んで、数人がそばにいて何かをしている。
 動きは遅くて中腰。地面には数個の箱。大当たりだ。

『まさにお取引の最中っぽいでしゅ!』

『でもどうするにゃ? ソーニャが来るまで、まだ結構かかるにゃ』

 モナックの指摘通りソーニャたちの到着まで三十分近くはかかる。
 それまでここにいてくれるのか。連中は行ってしまうではないだろうか……。

 最低限の足止めさえできれば、それでいいのだけれど。

(せっかくここまで来たんでしゅから……!)

『モナック、行くでしゅよ』

『やるのにゃん!?』

『そんな正面から大立ち回りなんてしないでしゅよ。こそっとやるんでしゅ。それはそれで楽しいでしゅよ!』

『確かににゃ……! で、どうするのにゃ?』

 三毛猫ちゃんは連絡係として茂みに残し、私とモナックはこっそり馬車に近寄った。
 極限まで音と気配を消して、ハイハイと伏せながらの接近だ。

 馬車の近くには見張りがひとりいる。

「暇だぜー……」

 でも全然集中していないので楽勝だ。

 ふふん、まさか一歳児と黒猫が迫っているとは夢にも思うまい。
 隠密行動に慣れた私たちからすれば、カカシ同然だ。もしくはトーシローである。
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