転生した赤ちゃん皇女さまは家族のために暗躍します~冷酷皇帝一家の天才幼女がどんな事件も解決でしゅ!~

18.罪の香り

 数回の方向転換と緩急で私たちは馬車の真下まで来た。
 木箱を動かす音と野太い話し声が聞こえる。

「おい、急げ。もうすぐ見回りの時間だぞ」

「へいへい……。それまでには終わりますって」

 男たちの話し振りには緊張感がない。
 何回もやっていて慣れているのだろうか……。

『にゃーん、この匂い……』

 隣にいるモナックが鼻をひくひくと動かす。

『この前の、真っ黒な飲み物の匂いに近い気がするにゃ』

『あの箱の中身はコーヒー豆ってことでしゅ!?』

 モナックの頷きに私はごくりと喉を鳴らした。
 密輸品が何かまでは気に留めてなかったけれど……コーヒー豆だったら結構な大物だ。

 なにせ皇族のボルツでさえ簡単に手に入らないのがコーヒー。
 そんな箱が……ひーふーみー、たくさん。金額にしたらめちゃくちゃデカそう。

(ますます止めないと……でしゅっ!)

 馬車は二台で、片方からもう片方へ箱を移し替えている。

 狙うのはもちろん、移し替える側の馬車だ。
 私はそのまま移し替える側の馬車の下を周り、死角の車輪へ移動する。

 車輪は木製の簡素な作りだ。

『ふっふっふ……こんなボロ馬車で来たのが運の尽きでしゅ』

『まるで悪人の顔にゃん』

 そんなモナックも愉快そうな顔をしている。

『モナックもあたちと同じ顔してるでしゅよ』

 というわけで、私は車輪に顔を近付けて、瞳に魔力を集中させる。
 すぐに魔力が高密度の光となって――私の眼から車輪に注がれていった。

『大丈夫でしゅ?』

『箱に夢中で大丈夫にゃん』

 眼球発光の魔法の応用、もとい光を凝縮して放っているだけなのだけど。
 光には熱があり、集まれば大変なことになる。

 要は人間虫眼鏡だ。
 びびびーっと眼からのビームで車輪から焦げた匂いと煙が上がってくる。

 まだ怪しげな連中は異常に気が付かない。
 そんなに箱が大事なのか――ご愁傷様だ。

 やがてパチパチとした火が車輪から放たれ、焦げた匂いと煙がもうもうと立ち昇る。

『よっし、こいつらが浮足立った時に移動でしゅよ』

『はいにゃーん』

 火がかなりの大きさになって、馬のほうが異常を察知した。

「ぶひひーん!」

「な、なんだ!! うわぁ、燃えてるっ!」

 怪しい連中はようやく車輪の火に気が付き、大慌てになる。

「ど、どこから火が……!」

「馬鹿! んなことぁどうでもいい! 早く消せ!」

「いや、それよりも箱は!? 一旦、降ろせ!」

 ふふん、思ったよりも怪しげな連中は泡を食っていた。
 その間に私たちは隣の馬車の下へと素早く移動する。

「川だ! 川から早く水を……!」

「馬車ごと川に入れるのは――」

「こんな状態の馬を制御できるか! 馬をまず離して落ち着かせろ!」

 怪しげな連中は急いで箱を馬車から降ろす人と川に向かう人、馬を馬車から離して落ち着かせる人に別れた。

 ということで、もう一方の馬車は完全に放置状態だ。
 今なら箱を調べても……。

 私は素早くもう片方の馬車に乗り込み、すちゃと箱を開ける。
 箱を開けると、やはり中はコーヒー豆だ。

(芳醇な良い豆でしゅけど、もし密輸品なら罪の香りというやつでしゅ)

 スパイ映画めいた気分に浸り、馬車を降りようとして――荷台の奥に、魔力のわずかな波動を察知する。

 意識を集中しながら奥へ進むと、木箱の上に何かがあるように思えた。

(これは――……?)

 木の札だ。手に取ると確かに魔力が込められているのを感じる。
 しかし反応は微弱で、大した魔法が込められてはいない。

 にゅっとモナックが覗き込んでくる。

『これは符号の札にゃね』

『それはどういうやつでしゅか?』

『簡単にゃ。同じ魔力が込められた札を合わせると光ったりするだけにゃ』

 なるほど、魔力でもって仲間であるかの確認をするわけか。
 これなら偽造は難しい。

 でも……この札の魔力には覚えがある。その感覚に私は戦慄していた。

『これ、グレンダの魔力でしゅ』

『はぁんにゃっ!? それってマジかにゃ……くむくむ、にゃっ……確かに、そんな気がするのにゃ』

 やはりモナックも同じふうに思った。
 でも決めつけるのは早計だ。

 似たような魔力の持ち主ということもあるし、証拠能力がどれだけあるかもわからない。

『この符号の魔力はどのくらい持つでしゅ?』

『ちゃんと保管すれば数日にゃ。でも野晒しだと一日で魔力は消えちゃうのにゃ……』

『そっか、じゃあ証拠にはならないんでしゅね』

 やはりそこは考えているか。
 仮にこの木札を奪われても、線を辿るには限界がある。

 でも……今、私はひとつの点を目にした。
 もしグレンダが関わっているなら、思ったよりも全容は遥かに大きい。

『そろそろ出るにゃ』
『……はいでしゅ』

 念の為に木札を服にしまい、馬車から抜け出す。
 怪しげな連中はまだ混乱しつつ、馬車の火をどうにかしようとしていた。

 そこへランタンを持った集団が近付いていった。

「帝都警察です! 全員、おとなしくしなさいっ!」

 それはソーニャの率いる警察隊であった。タイミングばっちりだ。
「な、なんでここに!?」

「逃げろー!」

 現場はさらなる混乱に包まれる。
 私はそれに紛れて、現場からすすっーと離脱することができた。

 ここから先は大人に任せよう。
 これは私が薄情なわけではなく、ソーニャから直接的に関わらないよう言われているからだ。

 連中と戦っても負けるはずはないと思うけれど、従っておこう。

『にゃー、派手に始まったのにゃ』

 おーおー、押し合いへし合い殴り合い。川沿いで大捕物だ。
 ただ、そこでも活躍したのはソーニャだった。

 魔法が使えるソーニャは、暴れる男たちを叩き伏せ、川へと投げて……。
 結局、怪しげな連中は十数分ほどで全員捕縛された。

『なかなか見応えあったのにゃん』

『逃げおおせた人はいないみたいだし、あたちたちも引き上げでしゅよ』

『はいにゃーん』

 帰り道は急がなくていい、魔力でのランニングだ。
 とはいえ、人に見つからないようにはするけれど。

 公園に到着したのが小一時間後。
 今回のMVPは間違いなく、帝都に住まう猫ちゃんだ。

『ありがとでしゅ、猫ちゃん』

「にゃうーん」

 そこで三毛猫ちゃんとハグして別れる。
 私たちもこっそーり寝室に戻り、気持ち良く寝る時間だ。

 魔法という才能と今まで見たスパイ映画の知識を、余す所なく使えた……気がする。
 私はモナックを抱きしめながら、帝都の夜に並ぶ星を見上げた。

『ふぅ、これでミッションコンプリートでしゅね……!』
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