転生した赤ちゃん皇女さまは家族のために暗躍します~冷酷皇帝一家の天才幼女がどんな事件も解決でしゅ!~
19.作戦が終わって
事の顛末は翌日、カミルのいない時にソーニャから聞いた。
「やはり昨夜の徒党は、密輸商人だったようです」
「だうだう」(やっぱり)
ソーニャの作ってくれた豚肉のスープを飲みながらの作戦会議だ。
薄く切られた豚肉は脂が少ないが、くたくたの柔らか野菜に比べれば……食べた心地がする。
モナックは初秋のデカ焼きサーモンをはぐはぐと食べていた。
「詳細はこれからの取り調べになりますが、荷物は全てコーヒー豆のようでした。不思議なのは……あれだけの高級品をあのような連中が持っていたことです」
ソーニャいわく、コーヒー豆はシェパード王国の戦略商品で、ヘイラル帝国への輸出は厳しく管理されているはずだとか。
専用の箱と袋まで用意され、他に流出しないよう手を打っているらしい。
昨夜の扱いはとてもそうだとは思えないけれど……。
シェパード王国からの輸入量がごく少量のため、ヘイラル帝国では富裕層を中心にコーヒー豆は熱狂的な需要があり、極めて高価格で取引されている。
「これらの取引は既存の得意先のみ。新規購入は皇族も容易でない……そんな商品がコーヒー豆です。専用の袋、箱以外での流入も罪になるほど……」
まさかコーヒー豆がそんな扱いだとは……とはいえ、ヘイラル帝国では気候的にコーヒーの木が育たないので、仕方ない。
日本もコーヒーの木の栽培はできても、豆としてはほぼ全量を輸入に頼っている。
外国から死ぬほど買っている、そんな商品がコーヒー豆なのだ。
「どのようなルートで仕入れ、売りさばくつもりだったのでしょう……」
「あーぶー」(謎でしゅねー)
空中で文字を書きながら、私はちょっととぼけた。
あの符号の木札について、ソーニャには話していない。
というのも私たちが持って帰ってすぐに木札の魔力が霧散してしまったからだ。
まぁ、用途からしてもう片方の馬車にも同じ木札が合ったのではと思う。
そして取引前に符号を確かめ、ぽいっと……そんなところだろう。
それ以外にあの夜、使うタイミングはない。
さらにグレンダが関わっているとなると大事だ。慎重に動かなくてはいけない……。
「ばうっ!」(大物が関わっているかもだから、気を付けるでしゅ!)
「お気遣い、感謝申し上げます。今回の事件は帝都の見回りも隙を突かれて……不審な点がいくつもございますので、私も用心いたします」
そこでソーニャがふぅと重い息を漏らした。
「本来であれば、このようなことは我ら臣下のお役目……それをただならぬ魔力と知性があるとはいえ、ラミリア様のお手を煩わせるとは……」
「あうっ、んっ!」(あたちは気にしないでしゅ!)
「……一歳児の手を借りたというのは、やはり……」
がーん。だけど、これは仕方ない。
私は皇女だが一歳児。こんな子どもは他にいないみたいなので、動くにも信用してもらうにも限度がある。
とはいえ、今回の事件を契機に帝都の見回りは強化された。
さらには猫ちゃんの手も借りつつ……秋のうちに何度か、同じように密輸現場の取り押さえに協力する。
それから差し押さえた密輸商品にコーヒー豆はなかったが、スパイスなど南方の品ばかりだ。
だけど副次的な効果もあった。レインの頭の痛い仕事のうち、いくらかは密輸関連だ。
その取り締まりが進んだことで家族の時間が確実に増えたのだ。
なので初秋が終わり、秋本番になる頃には家族全員の食事が増えていた。
その夜の晩餐ではサーモンのお粥……は私だけ。
他の家族はキャビアを載せたサーモン料理に舌鼓を打っていた。
流れるような所作でレインがサーモンを切り分け、口に運ぶ。
「今年はサーモンも豊漁のようだ。漁業ギルドから報告があった」
「まぁ、農作物に続いて朗報ですわね。川の女神様に感謝しなくては」
カミルはいつも通りクールだが、レインと顔を合わせる機会が増えてどことなく嬉しそうだ。
母が嬉しいと私も嬉しい。
「仕事も軌道に乗りつつある。シャルウッド、お前の体調は?」
「とても良いです。あの日々の辛さが嘘のようで……」
にこにことシャルウッドがレインに似た所作でサーモンを食べる。
ただ、彼の皿だけはソースの色が違った。
薔薇科のものは一切排除しているので、ベリーやリンゴもソースからなくしているのだ。
だからソースや細かな付け合わせがシャルウッドだけ違う。
でも当人からすると症状が出ないほうがいいらしい。
ある程度、食事が終わったところで
レインがシャルウッドに頷く。
「家庭教師からも勉強が進んでいると聞いている。十二歳からは帝国学院だ。気を引き締めるんだぞ」
「はいっ……!」
やる気に満ちたシャルウッドに比べて、ボルツはどことなく上の空だった。
「ボルツ、お前はもう少し座学に身を入れるべきだな」
「あっ、えっ、はい……っ!」
レインから言葉をかけられ、ボルツが反応する。
だが、その反応からはレインたちに注意を向けていなかったのは明白だった。空気が途端にピリつく。
レインの鋭い瞳がボルツに向けられた。
シャルウッドが立ち上がり、私のベビーカーのそばに来る。
「ラミリアと一緒にちょっと歩いてきます」
「……わかった」
「そうしてらっしゃい」
レインとカミルの承諾を得て、シャルウッドが私のベビーカーを押して広間を出る。
うーん……シャルウッドはお説教タイムを察して、私と一緒に脱出したわけだ。
モナックはテーブルの上で膨らんだお腹を晒してごろりと寝ていたので、私だけが連れ出された。
もちろんシャルウッドと私だけで広間から出たわけではない。お付きの人も同伴なので、そこそこの集団だった。
(この辺りの機微は……さすがでしゅ)
だが、正解かどうかはわからない。
多忙のレインはシャルウッドやボルツとも接する時間が少ない。
カミルはカミルで情は深いが……一方で自他ともに厳しい。
(難しいでしゅねー……)
そんなことを考えていると、シャルウッドが背後で息を吐いた。
「ごめんね、ラミリア」
「ばうー?」
振り返るとシャルウッドが私の頭に手を伸ばし、優しく髪を撫でられた。
病的に細くて青白かった指が、ずいぶんと血色良く変わっている。
「最近、ボルツは色々と悩んでいるみたいなんだ」
「うー……」
「あはは、まだわからないよね」
私の頭から手を離したシャルウッドはそのまま、ベビーカーを押しながら中庭へ歩いていく。
この中庭は紅葉がほとんどなく、鮮やかな色の花や緑のままだ。
池のそばに来た時、シャルウッドがぽつりと呟く。
「……僕はもっと頑張るべきなのかな」
二十分ほど時間を使い、私たちは広間に戻ってきた。
雰囲気は出た時のままだが……ボルツはどことなく元気がなかった。
その日の夜、私がいない間にどんな話があったのか、広間に残っていたモナックに尋ねた。
『にゃー、ボルツにもっと勉強を頑張れとかそんな話だったのにゃ』
『それだけでしゅか?』
『お腹いっぱいでねむねむだったからにゃーん。あっ、他には自分が頑張らないほうが上手くいくんじゃないかとか言ってたにゃー……』
シャルウッドと同じ事を言っている。ふーむ、根深いような気がする。
『でもそれはカミルが結構強めに言い返したにゃ。皇族である以上、常に努力は必要だとか……人間は大変にゃんねー』
モナックは気楽にごろごろしている。
まぁ、モナックからしたらそうなのだろうけれど。
『ラミリアちゃんはわかるのにゃ?』
『なんとなくでしゅけど……』
ヘイラル帝国では生まれや頭の良さだけでなく、魔法も重んじられる。
だからカミルは夜、魔法の練習を続けているのだ。
今はボルツのほうが魔法の才能も技術もシャルウッドより上。
皇位を継ぐのもどちらになるか微妙である。
(気配りや頭の良さではシャルウッド、元気の良さや魔法ではボルツ……でもシャルウッドも体調が戻ってきたわけでしゅし……)
シャルウッドは体調の件で大いに不利だったが、事情は変わった。
勉学の面ではさらに進展があるだろうし、魔法も……。
でも、そうするとボルツに魔法を教えたというグレンダはどう動くのか。
シャルウッドにも同じようにするのか、それともボルツにだけ魔法を教えるのだろうか。
(それだとボルツが皇位継承の最有力候補でしゅ? うぅ、わっかんないでしゅねー……)
だが、シャルウッドが元気になって状況が変化していくのは間違いない。
私はそれに合わせて、兄弟で亀裂が起きないよう……あとは母と父がもっと仲良くなれるような機会を作ることが大切なのだ。
「やはり昨夜の徒党は、密輸商人だったようです」
「だうだう」(やっぱり)
ソーニャの作ってくれた豚肉のスープを飲みながらの作戦会議だ。
薄く切られた豚肉は脂が少ないが、くたくたの柔らか野菜に比べれば……食べた心地がする。
モナックは初秋のデカ焼きサーモンをはぐはぐと食べていた。
「詳細はこれからの取り調べになりますが、荷物は全てコーヒー豆のようでした。不思議なのは……あれだけの高級品をあのような連中が持っていたことです」
ソーニャいわく、コーヒー豆はシェパード王国の戦略商品で、ヘイラル帝国への輸出は厳しく管理されているはずだとか。
専用の箱と袋まで用意され、他に流出しないよう手を打っているらしい。
昨夜の扱いはとてもそうだとは思えないけれど……。
シェパード王国からの輸入量がごく少量のため、ヘイラル帝国では富裕層を中心にコーヒー豆は熱狂的な需要があり、極めて高価格で取引されている。
「これらの取引は既存の得意先のみ。新規購入は皇族も容易でない……そんな商品がコーヒー豆です。専用の袋、箱以外での流入も罪になるほど……」
まさかコーヒー豆がそんな扱いだとは……とはいえ、ヘイラル帝国では気候的にコーヒーの木が育たないので、仕方ない。
日本もコーヒーの木の栽培はできても、豆としてはほぼ全量を輸入に頼っている。
外国から死ぬほど買っている、そんな商品がコーヒー豆なのだ。
「どのようなルートで仕入れ、売りさばくつもりだったのでしょう……」
「あーぶー」(謎でしゅねー)
空中で文字を書きながら、私はちょっととぼけた。
あの符号の木札について、ソーニャには話していない。
というのも私たちが持って帰ってすぐに木札の魔力が霧散してしまったからだ。
まぁ、用途からしてもう片方の馬車にも同じ木札が合ったのではと思う。
そして取引前に符号を確かめ、ぽいっと……そんなところだろう。
それ以外にあの夜、使うタイミングはない。
さらにグレンダが関わっているとなると大事だ。慎重に動かなくてはいけない……。
「ばうっ!」(大物が関わっているかもだから、気を付けるでしゅ!)
「お気遣い、感謝申し上げます。今回の事件は帝都の見回りも隙を突かれて……不審な点がいくつもございますので、私も用心いたします」
そこでソーニャがふぅと重い息を漏らした。
「本来であれば、このようなことは我ら臣下のお役目……それをただならぬ魔力と知性があるとはいえ、ラミリア様のお手を煩わせるとは……」
「あうっ、んっ!」(あたちは気にしないでしゅ!)
「……一歳児の手を借りたというのは、やはり……」
がーん。だけど、これは仕方ない。
私は皇女だが一歳児。こんな子どもは他にいないみたいなので、動くにも信用してもらうにも限度がある。
とはいえ、今回の事件を契機に帝都の見回りは強化された。
さらには猫ちゃんの手も借りつつ……秋のうちに何度か、同じように密輸現場の取り押さえに協力する。
それから差し押さえた密輸商品にコーヒー豆はなかったが、スパイスなど南方の品ばかりだ。
だけど副次的な効果もあった。レインの頭の痛い仕事のうち、いくらかは密輸関連だ。
その取り締まりが進んだことで家族の時間が確実に増えたのだ。
なので初秋が終わり、秋本番になる頃には家族全員の食事が増えていた。
その夜の晩餐ではサーモンのお粥……は私だけ。
他の家族はキャビアを載せたサーモン料理に舌鼓を打っていた。
流れるような所作でレインがサーモンを切り分け、口に運ぶ。
「今年はサーモンも豊漁のようだ。漁業ギルドから報告があった」
「まぁ、農作物に続いて朗報ですわね。川の女神様に感謝しなくては」
カミルはいつも通りクールだが、レインと顔を合わせる機会が増えてどことなく嬉しそうだ。
母が嬉しいと私も嬉しい。
「仕事も軌道に乗りつつある。シャルウッド、お前の体調は?」
「とても良いです。あの日々の辛さが嘘のようで……」
にこにことシャルウッドがレインに似た所作でサーモンを食べる。
ただ、彼の皿だけはソースの色が違った。
薔薇科のものは一切排除しているので、ベリーやリンゴもソースからなくしているのだ。
だからソースや細かな付け合わせがシャルウッドだけ違う。
でも当人からすると症状が出ないほうがいいらしい。
ある程度、食事が終わったところで
レインがシャルウッドに頷く。
「家庭教師からも勉強が進んでいると聞いている。十二歳からは帝国学院だ。気を引き締めるんだぞ」
「はいっ……!」
やる気に満ちたシャルウッドに比べて、ボルツはどことなく上の空だった。
「ボルツ、お前はもう少し座学に身を入れるべきだな」
「あっ、えっ、はい……っ!」
レインから言葉をかけられ、ボルツが反応する。
だが、その反応からはレインたちに注意を向けていなかったのは明白だった。空気が途端にピリつく。
レインの鋭い瞳がボルツに向けられた。
シャルウッドが立ち上がり、私のベビーカーのそばに来る。
「ラミリアと一緒にちょっと歩いてきます」
「……わかった」
「そうしてらっしゃい」
レインとカミルの承諾を得て、シャルウッドが私のベビーカーを押して広間を出る。
うーん……シャルウッドはお説教タイムを察して、私と一緒に脱出したわけだ。
モナックはテーブルの上で膨らんだお腹を晒してごろりと寝ていたので、私だけが連れ出された。
もちろんシャルウッドと私だけで広間から出たわけではない。お付きの人も同伴なので、そこそこの集団だった。
(この辺りの機微は……さすがでしゅ)
だが、正解かどうかはわからない。
多忙のレインはシャルウッドやボルツとも接する時間が少ない。
カミルはカミルで情は深いが……一方で自他ともに厳しい。
(難しいでしゅねー……)
そんなことを考えていると、シャルウッドが背後で息を吐いた。
「ごめんね、ラミリア」
「ばうー?」
振り返るとシャルウッドが私の頭に手を伸ばし、優しく髪を撫でられた。
病的に細くて青白かった指が、ずいぶんと血色良く変わっている。
「最近、ボルツは色々と悩んでいるみたいなんだ」
「うー……」
「あはは、まだわからないよね」
私の頭から手を離したシャルウッドはそのまま、ベビーカーを押しながら中庭へ歩いていく。
この中庭は紅葉がほとんどなく、鮮やかな色の花や緑のままだ。
池のそばに来た時、シャルウッドがぽつりと呟く。
「……僕はもっと頑張るべきなのかな」
二十分ほど時間を使い、私たちは広間に戻ってきた。
雰囲気は出た時のままだが……ボルツはどことなく元気がなかった。
その日の夜、私がいない間にどんな話があったのか、広間に残っていたモナックに尋ねた。
『にゃー、ボルツにもっと勉強を頑張れとかそんな話だったのにゃ』
『それだけでしゅか?』
『お腹いっぱいでねむねむだったからにゃーん。あっ、他には自分が頑張らないほうが上手くいくんじゃないかとか言ってたにゃー……』
シャルウッドと同じ事を言っている。ふーむ、根深いような気がする。
『でもそれはカミルが結構強めに言い返したにゃ。皇族である以上、常に努力は必要だとか……人間は大変にゃんねー』
モナックは気楽にごろごろしている。
まぁ、モナックからしたらそうなのだろうけれど。
『ラミリアちゃんはわかるのにゃ?』
『なんとなくでしゅけど……』
ヘイラル帝国では生まれや頭の良さだけでなく、魔法も重んじられる。
だからカミルは夜、魔法の練習を続けているのだ。
今はボルツのほうが魔法の才能も技術もシャルウッドより上。
皇位を継ぐのもどちらになるか微妙である。
(気配りや頭の良さではシャルウッド、元気の良さや魔法ではボルツ……でもシャルウッドも体調が戻ってきたわけでしゅし……)
シャルウッドは体調の件で大いに不利だったが、事情は変わった。
勉学の面ではさらに進展があるだろうし、魔法も……。
でも、そうするとボルツに魔法を教えたというグレンダはどう動くのか。
シャルウッドにも同じようにするのか、それともボルツにだけ魔法を教えるのだろうか。
(それだとボルツが皇位継承の最有力候補でしゅ? うぅ、わっかんないでしゅねー……)
だが、シャルウッドが元気になって状況が変化していくのは間違いない。
私はそれに合わせて、兄弟で亀裂が起きないよう……あとは母と父がもっと仲良くなれるような機会を作ることが大切なのだ。