転生した赤ちゃん皇女さまは家族のために暗躍します~冷酷皇帝一家の天才幼女がどんな事件も解決でしゅ!~
悩める兄様

20.消失

 そして翌日、風が強く、曇りの秋の日。

 気持ち良く午前八時くらいに目覚めた私は、目を擦りながらベビーベッドから起き上がる。

「あう……?」

 が、それだけで普段と違うのを察した。
 というのも、私が起きると誰かしらお付きの人がやってきて支度を色々としてくれるのだ。

 しかし、今日はそれがなく――バタバタと向こうが騒がしい。
 こんなことは初めてだった。

 あくびしながら、私はソファーでだらーんと寝起きのモナックにテレパシーを送る。

『何かあったんでしゅかぁ〜……』

『知らないのにゃー……』

 駄目だこりゃ。カミルも寝室にいないし、向こう側は人でうるさい。
 仕方なくストレッチしながら待っていると、ソーニャがひとりで寝室にやってきた。

「ああっ、お目覚めでございましたか……。失礼いたしました」

『何があったんでしゅー?』

「ボルツ様が行方不明でございます」

『ええっ!?』

 のんきに聞いていた私の目がばちっと覚めた。
 ベビーベッドの柵に掴まりながら、ソーニャの説明を聞く。

「本来であれば、本日は朝から座学の時間であったようなのですが……家庭教師がお部屋に向かったところ、もぬけの殻で。どうやら深夜に部屋からいなくなっていたようなのです」

『そ、それで?』

「今は可能な限りの人を出して、ボルツ様をお探しております。書き置きも何もないので、もしかしたら……誘拐の可能性も」

 なんということだ。
 ぐっすりと寝ていた間にそんなことになっているなんて。

『父上と母上はどーしたんでしゅ?』

「陛下は朝早く、シャルウッド様とともに隣の州の視察へ――使いの者が向かいましたが、本来のご予定でも午前中に戻られるかと。今は皇妃様が捜索の指揮を執っておられます」

 ふむむ、なるほど。でも待てよと私は思った。
 皇族居住区の警備が緩いのは知っているけれど、皇宮自体の警備は厳重だ。

 私が夜中のお散歩をしているのは、モナックという最高の案内人がいるから。

 モナックなら皇宮のどこでも行ける上、偵察役として不審に思われることがない。
 モナックがいなければどんなに魔力があっても出入りは困難だ。

 となると――そこまで考えて、もう私のアレコレに慣れっこのソーニャが尋ねてくる。

「……ラミリア様、何かお考えが?」

『今、ボルツの部屋はどうなっているんでしゅか?』

「手掛かりを探すための捜査は終わり、そのまま封鎖されております」

『じゃあ――あたちたちが調べても問題ないわけでしゅね』

 私は腕を組みながら唸った。
 今こそスパイ知識(映画)を活かす時だ。

『キメの細かい片栗粉はすぐ用意できましゅか?』



 ソーニャの口添えで私たちはボルツの部屋へと到着した。
 あっさり誰の監視などもなく立ち入れたのはかなり意外で。

(やっぱりソーニャもかなりの権力者の香りがしましゅ)

 思えば警察隊を夜中に動かせるくらいなのだ。
 カミルを除いてもかなりの影響力があるのだろう。

 ソーニャにはこの部屋を調べた記録も持ってきてもらっている。

 ボルツの部屋はカミルの部屋やレインの執務空間に比べるとかなりごちゃごちゃしていた。

 木彫りの……よくわからない二の腕サイズのトーテム。
 へんてこな極彩色の海だか草原だとかの絵画。

 好奇心強めの子ども部屋だった。
 そこで私はソーニャに用意してもらった片栗粉の入った革袋を持っている。

『にゃー、それでその白い粉でどうするのにゃ?』

『こうするんでしゅ』

 私は部屋の入口から白い片栗粉をぱっぱっと撒いていった。
 すぐに床が粉まみれになる。さすがの所業にソーニャもびっくりする。

「な、なにを……!?」

『ちょっと待つでしゅ』

 私はさらに部屋に入りながら片栗粉を撒いていく。
 玩具の棚、衣装棚、窓際、ベッド近く……。

『けむっぽいにゃー』

『ちょっと我慢するでしゅ。ふむ……』

 私はまいた粉を踏まないよう、慎重に回り込んで観察する。
 キメの細かい片栗粉は指紋も取れる……映画ではそうだった。

 そして思った通り、片栗粉を撒いた場所には様々な痕跡が浮かび上がってきている。

 床は当然、出入りした人間の足跡だらけだ。
 ソーニャも撒かれた粉を見て私の意図を察し、胸を押さえる。

「こんなにはっきりと跡が……これなら、でも……!」

『そうなんでしゅが、床は駄目でしゅね』

 でもこれは予想通り。床には期待していない。
 私は衣装棚へ近寄る。そこのドアノブには複数の指紋が残っていた。

『ラッキーでしゅ……!』

 モナックも近寄ってドアノブを見上げるが、首を傾げる。


『これってドアノブに触った跡にゃん? でも、色んな人が触ったみたいにゃん』

『ふっふふ、このドアノブを開けた最後の人はわかるんでしゅよね?』

「ええ、この部屋を捜索したのは皇宮近衛隊の三十代男性二人とボルツ様のメイド二人でございます。私も顔見馴染みの方々ですが……」

『その中にボルツ兄上と同じくらいの体格の人はいたでしゅか?』

「いいえ、全員がボルツ様より頭ふたつ以上は大柄です。あっ、そうすると指のサイズが……!」

 その通り。ボルツの体格は普通の子供だ。指のサイズが大人とは全く違う。
 じーっと見ると、ドアノブの新しそうな指紋の中に明らかに小さな指紋が残っている。

「これがボルツ兄上の指の跡でしゅね」

『にゃー。ということは自分で棚を開けているのにゃん?』

 モナックの言葉に私は頷く。
 この指紋から推測できることはいくつもある。

『衣装棚には鍵はないでしゅ。もし誘拐なら犯人が開ければいいだけでしゅよね』

「その通りでございます。衣装棚から服がひとつ消えているのは確認済み……!」

『兄上は自分の意思で服を着替えて、部屋を出たかもでしゅ』

『にゃーん……それなら一安心かもにゃけど、でもそれならどこにいったのにゃ?』

『それはこれからでしゅ。ふむ、この指の跡としてでしゅね……』

 私は次に窓際に向かう。そこにも複数の指紋がついているのたが、さっきと衣装棚と指紋が……窓の外へ続いていた。

 私はソーニャに用意してもらった手袋を着けて、すでにある指紋を消さないように窓を開ける。空は暗く、朝からどんよりと曇り模様。しかも大気が湿っている。

 そこからぱっぱっと片栗粉を撒いていく。

 指の跡はどんどんと窓の外柵から向こうへと続いているようだった。
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