転生した赤ちゃん皇女さまは家族のために暗躍します~冷酷皇帝一家の天才幼女がどんな事件も解決でしゅ!~

21.指紋を追って

 ソーニャも窓の外を覗きながら顔を青くする。

「まさか、ボルツ様は窓から外へ?」

『みたいでしゅね』

「急いで他の人にも伝えないと!」

 慌てるソーニャを尻目に私はよっせと窓から身を乗り出して外柵に手をかけた。

「ラ、ラミリア様っ!? 危のうございますよ!」

『大丈夫でしゅ。というか、あたちはもっと高いところから着地してましゅよ』

 密輸現場への急行などで、ソーニャは私が飛行魔法を使えるのを知っている。

 あれも高いところでは十数メートルの高さから落下するのだが、私は無傷だ。
 身体強化の魔法により、私はハリウッドも驚くべき超人になっているのだから……!

『雨が降ったら指の跡は消えちゃうでしゅよ。急がないと……でしゅ!』

「そ、そうでございました!」

 本日は風強く雲厚し。

 正直、いつ雨が降ってもおかしくない。
 人を呼んでちまちまやって、雨が降ったら台無しだ。

 ボルツの窓から見える範囲に人はいない。
 私はそのまま外柵から猫の彫像を見つめる。

 あまりデフォルメされていない、可愛くない猫の彫像だ。

『身体強化が使えるとしても、あたちほどは動けないはずでしゅ』

 ひょいっと彫像に飛び移る。恐らくボルツはもっと安全策で行っただろうが。
 片栗粉を振り撒くと、指の跡がここにも現れた。

 さっきのドアノブと同じサイズ。
 他の痕跡はない。ひとりだ。

 ほぼ間違いなくボルツは夜から朝の間に、自分の意志で部屋から出た。
 指の跡は……猫の彫像の背から東側に向かっている。

『今度はチーターの彫像でしゅね』

 指の跡からすると、ボルツは三階の自室から二階部分にあたるチーターの彫像にジャンプしたようだ。

 ふんっと私も階下の彫像へと飛び降り、すちゃっと着地する。
 片栗粉を撒いてみると……指の跡が彫像の東側に残っている。

 それはちょうど次の彫像に一番近い位置だ。
 彫像から彫像の乗る台に降りた時に残ったものだろう。

 ということはまた東にある次の彫像が怪しい。
 ハラハラしているソーニャだが、とりあえずは続行していいようだ。

 私はソーニャに見えるよう上向きに空中文字を書く。

『二階は小部屋が多いんでしゅよね?』

「ええ、二階は書庫や歴代皇族のコレクション、他国からの贈答品の保管室など……。生活空間は少なく、隠れるところは多いかと」

 ずっと前に見せてもらった皇宮の地図通りだ。
 ひとつひとつの部屋は私たちの居住する三階に比べて狭いけれど、二階には四十以上の部屋があった。

「虫干しや帳簿との確認など、人の出入りがないではありませんが……しかしその大半は日常的な接点がありません」

『あい、じゃあどこにいったか詳しくわかるに越したことはないでしゅね』

 こうして何回か彫像を飛び移ると、ふいにボルツの指紋が完全に途切れた。

 ふむ……その彫像はひとつの窓の前に鎮座している。

 私は慎重に、その窓の取っ手に片栗粉を振りかけた。
 ビンゴ。ボルツの指の跡が窓の取っ手に残されている。

 ボルツはこの窓の取っ手に触れている。
 魔力の残り香……この窓の取っ手にはかなり強力な魔法の封印、処置がされていたようだ。

 でも現在、魔法は完全に解けている。
 私は慎重に指先で窓の取っ手に触れた――だが、取っ手には鍵がかかっていた。

(可能性はふたつでしゅ。ボルツは窓が開かなくて断念し、手掛かりもなく消えた。もうひとつ。ボルツは窓の取っ手を開けて中に入り、内側から鍵を閉めたかでしゅ)

 じーっと窓の取っ手とその鍵穴を見つめる。二階なのもあって、鍵はごく簡素だ。
 事前に何回も訪れて準備をしていれば、ボルツも開けることは不可能ではないように思えた。

 問題はこの部屋だが……ボルツの部屋の窓からソーニャが半身を出している。

(位置関係もわかりまひた。とりあえず戻るでしゅ)

 ひょいひょいと彫像を華麗にジャンプし、ボルツの部屋に戻ってくる。

 部屋の中も服も片栗粉だらけだ。多少綺麗にならないと移動もできない。
 ぽんぽんと粉を払いながら、ソーニャにあの二階の部屋が何なのか確認する。

「あそこは……確か古書保管庫でございます」

『えーと、古い本が置いてある的なでしゅ?』

 ボルツの部屋には色々と物があるが、本棚はひとつだけ。

 しかも本棚には大して本も置かれておらず、スカスカである。
 ボルツが本に大して興味がないのは一目瞭然のように思えるけれど。

「歴代皇帝の収集した私的な本、日記等を保管した部屋になります。ボルツ様が興味を引かれるようなものは……。それにあそこには特殊な封印がしてございます」

『確かに窓にも魔力の痕跡があったでしゅ』

「痕跡……封印が解除されていたので!?」

『鍵はしまっていたでしゅけどね。あの窓の魔法はそんな特別なのでしゅか?』

「二階のいくつかの部屋の封印は皇帝陛下とその子しか解除できません。今、その資格を持って皇宮におられるのは――ボルツ様とラミリア様だけです!」
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