転生した赤ちゃん皇女さまは家族のために暗躍します~冷酷皇帝一家の天才幼女がどんな事件も解決でしゅ!~

22.カミルの想い

 一方、その頃。
 皇宮三階の広間に座したカミルはそこからボルツを探す指揮を執っていたのだが、一向にボルツが見つからない。

 一報が入ってから二時間ほどが経過し、カミルは焦り、これまでにないほど憔悴していた。

「一体、どこに行ってしまったの……?」

 三階部分は総ざらいしたが、見つからない。
 レインの執務場所までひっくり返したのに。

 もしかして皇宮の外かもと思ったが……皇宮のそばには大小、数十の建物がある。

 グレンダたち、他の皇族が住む館や官僚の公舎、軍の駐屯所など。
 もしここら辺にいるなら、とてもではないが皇宮の人間では足りない。

 カミルが動かしているのはまだ皇宮の人間だけだった。

(私の判断だけで帝都全体を巻き込むのは……っ。でも時間をかけたら、それだけ……)

 ボルツの行方不明はまだ広く公表しておらず、皇宮外の人間は何も動いていない。

 騒がしい室内の中でも大きな壁時計の針がとても気になる。
 時刻は午前の八時半過ぎ。

 レインとシャルウッドがもし最速で公務先から移動しているなら、もう帰還する頃だ。

(……私がもう少し、ボルツに寄り添ってあげれば)

 正直、外部の人間がボルツをどうこうできるとは思っていなかった。

 皇宮は入るのに何重ものセキュリティがある。
 さらにはボルツには魔法の才能もあり、今でもカミルを魔法の実力で上回っているほど。

 外部の人間が関与していたとしても、ボルツ自身の手引きがなければ何も起こるはずがない――。
 だからこそ、最近のボルツの変化。

 わかっていながら……見過ごしてしまったことが心の底から悔やまれる。

(私は……駄目な母親ね)

 自分が十七歳だということを、言い訳にはできない。

 カミルはわかってレインに嫁いだのだ。
 彼の心がまだ亡き前妻にあると知っていて。シャルウッドとボルツという子がいるのを知っていて。

 だからこそ完璧でなければ――皇妃としても母としても。
 なのに上手くいかない。

 そこへソーニャが戻ってきた。彼女にはラミリアの様子を見るように伝えていたのだが、ここに戻ってきたということは……。

「ラミリアは大丈夫だった? 普段とは違う皇宮の様子に影響されていなければいいけれど」

「ラミリア様はとても肝が据わっております。普段と違うのを察しながらも、きゃっきゃっといつも通りでございました」

「そう……良かったわ」

 カミルからしてラミリアは不思議な子であった。

 泣かないし、動じない。
 好奇心も強いように思えるが、無茶をするわけでもない。

 とくに暴れたりかじったりがないのだ。魔力を持て余すこともない。
 他の子持ちの方々に聞いても、珍しい子どもではないかと言う。

「……それで皇妃様、ラミリア様の元に向かった際、モナック様が」

「モナックが?」

 そこでソーニャがすすっと背後から黒猫のモナックを取り出した。

「にゃうーん」

「実はモナック様の動きをみるに、もしかしてボルツ様の行方を掴まれたのではないかと」

「本当……!?」

 ソーニャが言うには、モナックが片栗粉を持ち出してボルツの部屋で振り撒き始めたとか。
 そしてしばらく観察をしていると、窓から外へ出た痕跡があるのだという。

 ボルツの痕跡は途絶えたが、痕跡は古書保管庫を指し示している……と聞いてカミルはばんと立ち上がった。

「古書保管庫ね、すぐに向かうわ……! ソーニャ、あなたはラミリアを連れてきて!」

 古書保管庫は歴代皇帝の日記等がある関係上、特殊な魔法の封印が施されている。
 扉を開けるには皇帝その人か、その血を引く者が必要だ。もしくは魔法省の高官数人を動員して、無理やり開けるか。でもそれは考えられない。

 なのでラミリアを迎えに行かせ、カミルはモナックを抱えて先に二階の古書保管庫へ向かう。
 その途中の階段、急ぐカミルはレイン、シャルウッドと合流した。

 思ったよりも早い帰還だ。カミルの心がふっと軽くなった気がした。

「陛下……っ」

「カミル、事情は聞いた」

 レインの顔に焦りは出てなかったが、瞳はわずかに揺れていた。
 額にも汗が浮かんでいる。

「ボルツの行方は掴んだか?」
「モナックが二階の古書保管庫にいるのではないかと」

 そこでシャルウッドがカミルに向き直る。

「古書保管庫ですか……? あそこの扉の封印は破ればすぐわかるのでは」

「……わからないわ。でも窓から入ったのではないかと」

 それを聞いたレインとシャルウッドが顔を見合わせる。

「窓からだと……?」

「にゃーん」

 ふにふに顔を洗うモナック。

 にわかには信じられないが、モナックは普通の猫とは違う。
 他に手掛かりもなく、一行は古書保管庫に辿り着く。

 古ぼけた木製の扉に、青白い魔法陣が刻まれている。
 魔法陣はゆらゆらと魔力を放ち、カミルから見て健在のように思われた。

 二階には扉に魔法陣が刻まれた部屋がいくつもある。

「父上、三年ほど前にボルツが別の部屋の封印を破ろうとしたことがありましたね」

「あったな、そういえば」

「私が嫁ぐ前のことですわね」

 彼とボルツが皇宮内を散歩している最中、ボルツが好奇心に駆られて魔法陣で封印された扉を開けようとしたことがあったのだとか。

「この魔法陣は適合した魔力があっても簡単には開かない。ふむ、封印にも異常はないな」

 その時は扉から雷のような轟音が鳴り響き、ボルツは泣いてしまったのだという。
 結局、扉も開くことがなかった。

「窓にも封印はしてあるはずだ。だが……時間をかければ破れるかもな」

 それはボルツが自分の意志で計画的に、今回の事件を引き起こしたと指摘するようであった。
 レインの手からは断続的に魔力が流れ、魔法陣を伝っていく。

 じりじりとした時間。カミルは息が苦しくなる。
 扉の向こうには本当にボルツがいるのだろうか。

 腕の中のモナックはうにゃーといつも通りだ。

 今回の事件もモナックにとっては、大したことがないらしい。
 やがてソーニャがラミリアを抱っこしながら連れてきた。

「だぁー……」

 ラミリアは不思議そうに小首を傾げて家族全員を見渡す。
 異様な張り詰めた雰囲気にもラミリアは我関せず、落ち着いていた。

 その頃には魔法陣のほとんどにレインの黒の魔力が流れて、封印が弱まっているのを感じる。

 聞いていた以上に封印は強固だ。
 レインでも十分以上かかるなんて……ボルツなら何時間かかるのだろうか。

「そろそろ開くぞ」

 レインが口を開いてすぐ、黒の魔力がぱちりと音を鳴らして弾けた。
 同時に魔法陣がただのペンキ跡に変わり、封印が解かれたのを感じ取る。

 続けてレインが側近から古い鍵を受け取り、ドアノブに差し込んだ。
 鍵は大したことがないようで、すぐにカチャリと開く。

 レインの表情は厳しい――魔力を使ったからか、この状況をどう思っているのか。
 レインがドアノブを掴んだところで、カミルはレインの手に自分の手を添えた。
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