転生した赤ちゃん皇女さまは家族のために暗躍します~冷酷皇帝一家の天才幼女がどんな事件も解決でしゅ!~

27.恍惚のグレンダ

 一方、その頃。グレンダは父や護衛とともにモナックを拘束した最上階の部屋にいた。

「今日も猫ちゃんは大人しくしてるわね」

「うむ……我が娘ながら見事だ」

「薔薇が咲くまでには決着をつけたいですわ」

 グレンダは華やかで美しいものが好きだった。

 館に併設された薔薇園はそのひとつだ。
 薔薇は本来、春に咲くもの。しかしグレンダは大金をかけて秋に咲く品種も集めていた。

 それらの薔薇は今、まさに蕾をつけている。
 そこで部屋の扉が軽快にノックされた。グレンダが扉に近付き、執事から用件を聞く。

「……何用でしょう?」

「陛下が昨日の件にて――お礼を申し上げたいとのこと」

「えっ?」

 グレンダは胸に手を当てる。
 昨日のことは、確かにレインを想ってのことだった。

(シャルウッドとボルツなんて、レイン様には不要よ。あの二人にヘイラルを率いることなんて出来ないし、レイン様が手を煩わせる価値もない……)

 だからグレンダはボルツに手を貸して、あんな馬鹿な真似をさせたのだ。

 考えなしのボルツはほいほいと乗って、古書保管庫にグレンダを導いた。
 あの古書保管庫に入るには、皇帝その人かその子でないといけない。

 だから利用したまでのこと。

 それで一時的にレインから不興を買ってもグレンダは構わない。

 いずれ正しいことだったと理解してもらえると信じていたからだ。
 アルガートはしかし、執事の言葉に眉を寄せた。

「レインがお前を――?」

「まぁ、すぐに行きますとお伝えして!」

 グレンダは驚くほど上機嫌になって、扉の先の執事に答えた。
 レインのことになるとグレンダは思慮も計算も吹き飛んでしまう。

 それはアルガートの思惑に沿うこともあれば、予想外の結果をもたらすことも……。

「念の為、警戒したほうが良いのではないか。コイツの件かもしれん」

「……大丈夫ですわ。私を信用できないのですか、お父様」

 グレンダは微笑むと身支度のために部屋を早々に出ていった。
 取り残されたアルガートは首を横に振る。

「我が娘ながら……怪物だな」

 レインに呼ばれたグレンダはいつもより入念に化粧を直し、アクセサリーも厳選した。

「グズ、早くしなさいよ」
「は、はいっ!」

 怯えるメイドを急かして、グレンダは用意を整えて出発する。

 向かうのは皇族の住まう宮ではなく、公舎の貴賓の間であった。
 ここに呼ばれるのはグレンダにとっても珍しい――本来は外国の賓客向けだからだ。

「ふふっ……誠意の証かしら?」

 どうでも良い話なら、もっと気安い部屋を選ぶだろう。

 高鳴る胸を押さえながら、グレンダは貴賓の間に到着した。
 黒と渋い木目の色で飾られた貴賓の間には、伝統と威厳が漂う。

 しかしグレンダの趣味では全くなかったが。
 輝くような黄金や宝石、象牙、大理石――すぐわかる派手な物のほうがグレンダの好みであった。

 貴賓の間にはレインが座って待っていたが、グレンダを認めると立ち上がった。

「呼び出して悪かった」

「いいえ、陛下のためならば……いつ何時でも!」

 にこやかに応じたグレンダはレインに勧められ、黒革のソファーに向かい合って座った。

「昨日はボルツの件で色々と面倒をかけた。そのことについて、改めて御礼を言いたくてな」

「そんな――もったいない御言葉ですわ」

「……昨日は動転していた。ボルツがいなくなったと聞かされて。グレンダ、君に苛立ちをぶつけてしまった……と思う。浅慮だった」

「陛下、私は本当に何とも思っていませんわ。皇族ならば当然のこと。ましてあのぐらいの年頃なら……」

 これは紛れもない嘘だった。

 グレンダはボルツのことなど、利用できる馬鹿にしか思っていない。
 モナックをどうにかする術があるとすれば古書保管庫――そのような目算の時に、たまたま手近にいて利用できただけだ。

「公務が忙しいゆえ、ふたりの子もカミルに任せていたが……どうやら中々に難しい」

「致し方ありませんわ。カミル姉様もお忙しいですもの」

 カミルはよくやっている、とはグレンダも認めている。
 本当ならボルツの居場所を明らかにするのも自分のはずだったのに……まさか残ったカミルが自力で探し当てるとは思わなかった。

「どうか私もお頼りくださいませ、陛下。陛下のためであれば……」

「……そうだな」

 レインが腰を浮かし、グレンダの隣に座り直した。
 端整な顔立ち、夢に見たレインがそばにいる――。

「今回の件で色々と俺も思うところが出てきた。グレンダの意見もよく聞かせてほしい」

「はい……っ!」

 これだ、これを待っていた。

 小さな仕掛けも繰り返せば運命を動かせる。
 あとはこのまま、もっとレインの懐に潜り込むだけだった。

 その時、一瞬――魔力のさざ波をグレンダは感知した。
 優れた魔力の持ち主であるグレンダだからこそ、感知できた程度のわずかなものであったが。

(……これは私の館から?)

 何か、魔法が使われたようだ。

「陛下、今……魔力を感じませんでしたか?」

「いいや、気のせいだろう」

 レインが首を振る。彼の魔力を感じ取る力はグレンダと同等。
 その彼が感知していないのなら……気のせいか。

(そうよ、大した魔力じゃなかったわ。私はそれよりも……)

 レインの瞳がグレンダを映す。
 いつまでも見ていたくなる、美しさと知性を秘めた瞳。

 この瞳こそ極上の宝石――それが近くにある。

 他のことなどどうでもいい。
 グレンダは今の魔力の拍動について、心の隅へと追いやった。
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