運命の恋は、スマホの外にありました
「ああ……手に持って歩いてきたのがダメだったのかなぁ。思えば、あの時は怒ってたから、勢い良く振っちゃってたような」

 反省しながら手と服を拭く。濃い色のデニムだから、汚れが目立たないのが不幸中の幸いだ。
 せっかく、優しい龍介さんと喋って、綺麗な夕陽も見られて、気持ちが上向いてたのに……。しょんぼりしていると、龍介さんが口を開いた。

「華恋ちゃん。君に新しい服を買ってあげようか」

「えっ?」

 言われたことの意味を理解出来ず、きょとんとする。

「このままだと、華恋ちゃんは公園で見知らぬ男の愚痴を聞いて、ジュースを零した記憶だけが残っちゃうだろ? そんなの可哀想だ。話を聞いてもらったお礼に、服をプレゼントするよ」

「いえいえ! 私も愚痴っちゃったので、お互いさまですよ。これは私のミスですし、この後は予定が――あっ!?」

 そこでようやく、自分がマチアプで知り合った男性と待ち合わせしていたことを思い出した。
 龍介さんとの会話に熱中していたら、いつの間にか忘れちゃってたよ。

 今、何時だろう? 急いでバッグを開けて、中からスマホを取り出す。
 画面を見ると、待ち時間の二十分はとっくに過ぎていて、通知欄に相手からの到着を知らせるメッセージが並んでいた。

「あ、そうか。華恋ちゃん、デートの待ち合わせ中だったな」

「はい」

 苦笑する龍介さんに頷いてから、相手に返信しようとして――、ふと、指の動きが止まる。
 このまま、龍介さんと別れていいの?
 ねぇ、華恋。
 このまま、誰かや何かに振り回されてばかりの人生で、本当にいいの?

「……」

 そうだわ。
 どんな恋を選ぶのかは、私次第よね。
 私は相手に返信する。

『ごめんなさい。私、初デートで三十分遅刻する人は無理です!』

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