月色の部屋で、第三夜伽は皇子の愛を待つ
「いいだろう。では、出発だ」
役人の目には、桐杏が勇気ある者として映ったことだろう。それを表すかのごとく、平民にしては骨のあるおもしろい女だと言うように、役人は片方の口角を上げてにやりとした。
「出発の前に、荷物をまとめさせてください」
「そんなものはいらない」
桐杏の申し出を、役人は一蹴する。桐杏はそれは困った、と思った。家族をいつでも思い出せるような品を持っていきたかったからだ。そうなると、今身につけている着物しかない。これは桐杏が十三歳の誕生日に、君火がこつこつ貯めた銭で買ってくれたものである。
「じゃあ、最後に島の人たちに別れを告げさせてください」
役人は桐杏のその要求をのんだ。桐杏は武器を隠し持っていないか、簡易な身体検査をさせられる。役人に歯向かう気などないのに疑われてしまうことは、彼女を悲しい気持ちとさせた。