月色の部屋で、第三夜伽は皇子の愛を待つ


「えっ!?」


 桐杏は声に出して驚く。


「そうだな、相手は十人ほどだ。島の男たち全員で立ち向かえば――」


 そばで聞いていた他の島民もその気になる。不条理に立ち向かおうとする思いはどんどんと伝染し、島の男たちのあいだで「やるか?」という雰囲気になりかけていく。


「みんな、お願い、やめて」


 桐杏は役人らに気づかれぬよう、言葉で止めた。戦いとなれば、死人は確実に出るだろう。それはすなわち、島民から死者が出るということだ。自分たちの方が絶対的に強いという自信があるからこそ、役人たちも少人数で島に来たとも考えられる。進んで敵を攻め撃てば、男たちだけでなく、島民は女子(おんなこ)どもも含めて全員処刑となるはずだ。争いは惨劇を生むだけだと感じた。だが、彼らにおとなしく従えさえすれば、桐杏ひとりが連れて行かれるだけで、だれひとり殺されない。
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