月色の部屋で、第三夜伽は皇子の愛を待つ


「みんなにも家族がいるでしょう。ここは私より自分の家族のことを考えた行動を取って」


 桐杏がそう説得すると、訓出たち島民は全員はっとし、鎮まる。桐杏を助けたいけれど助けられないという、断腸の思いを感じた。


「女、行くぞ」


 別れの挨拶もままならないまま、桐杏は役人たちに舟で連れていかれる。


「待ってくれ。桐杏は島の宝なんだ。私の命を差し出すから、その()だけは連れて行かないでくれ」


 判大狗が後ろからよたよたと追いかけてきた。それまで遠い場所にいたのか、彼は今になってここへ来たようだ。


「老人、うるさいぞ!」


 役人はそんな判大狗をムチで叩いた。


「うっ!」


 判大狗はその場に倒れる。


「判大狗さん!」


 桐杏は叫ぶ。年寄りの体にはどれほど痛かっただろうか、と。その痛みを想像するだけで、桐杏の目からは涙があふれる。自分が夜伽者に選ばれたことより、だれかが自分のために傷つく方が、桐杏には堪えがたかった。
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