月色の部屋で、第三夜伽は皇子の愛を待つ
「私がするのはお話じゃなくて、演奏でよいですか。私は演奏の方が得意なのです」
「演奏? 楽器は必要か?」
「いいえ。ただ、部屋の窓を開ける必要があります――この部屋に窓はないようですね」
ふたりは役人たちの目を盗んで、庭園に移動した。一緒に歩いてみると、寧丸の身長は百七十五センチメートルを優にこえていることがわかる。桐杏とは十センチメートル以上の身長差だ。
桐杏は四阿の椅子に座ると、まぶたを閉じて、自分の曲を演奏する。寧丸は桐杏のとなりで、初めて目の当たりにする現象に驚きながらも、その曲に聴き入った。
演奏が終わった頃には、寧丸の手の甲の傷はすっかり治っている。
「そなたは高等能力者なのか」
「身分の低い私が、そう呼べるのかはわかりませんが」
「高等能力者なら、丁重に扱うべきであろう」
寧丸は桐杏の長い髪を耳にかけた。桐杏はその接触にどきっとする。体は正面を向いたまま、横目で彼を見た。