月色の部屋で、第三夜伽は皇子の愛を待つ


 頃合いを見て、ふたりは部屋を出た。桐杏は部屋の前に置いていた衣類をさっと拾う。


「女は体力を失っている。帰りは馬車に乗せて送れ。この女は大人しく従順で、今後も利用価値がじゅうぶんにあるから、丁重に扱うのだ」


 寧丸は近くにいた役人に命令した。自分の前で見せていた態度とはまるで別人だが、それがまったくの演技だとわかっているから、桐杏は辛くならない。桐杏に見せた姿がうそで、本来の寧丸はこっちだと、そんな風に疑う心は、島育ちの桐杏にはなかった。


「はっ」


 役人は寧丸に向かって頭を下げる。この敷地内で、夜伽者はもっとも身分が低い。それでも、役人からすれば次期皇帝の命令は絶対なのだろう。


 役人は桐杏に粗暴なふるまいをすることなく、彼女を馬車に乗せる。桐杏は馬車の中で、寧丸との出会いを思い返すとともに、彼と離ればなれになったことをさみしく感じていた。
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