政略結婚した顔も知らない夫に気づけば溺愛されていたようです~御曹司は甘く攻めて逃がさない~
 いったいどう答えるのかと、父の顔を見る。

「いきなりなにを言い出すんだ。当たり前だろう。お前は父親の役に立てるんだから喜んで結婚するべきだ」

 私は残念ながら間違いなく彼の娘だ。そして彼の中で娘は自分のために利用するべきものなのだ。

 結婚って、家族ってこんなものだとあらためて実感した。それなら祖母のために結婚するくらいなんでもない。

「そんなに難しく考えなくていい。結婚といっても紙切れ一枚の話だ。相手と会う必要も同居する必要もない。向こうもそれを望んでいる。むしろ面倒なことはなにもないんだから、こんなにいい条件の結婚話なんてないだろう」

 この結婚を受け入れるなら、確かに面倒なこともなくこれまでの自分の生活を続けられるのは好条件と言えるだろう。

 今後どうせ誰とも結婚するつもりはない。それなら祖母のためになる今、結婚する方がいい。

「わかりました」

 怒りがなかったわけじゃない。でも私にとって大切な祖母を守れるならとOKした。

 そこからは抵抗も拒否もしなかった。

「相手には、娘はかなり抵抗したと言っておく。その方が向こうの罪悪感がかき立てられてこちらが優位になる。結納金が跳ね上がるな」

 本当にこれが人の親のセリフだろうか。クズすぎて言葉も出ない。

 大切な人を守るためなら結婚くらいいくらでもする。もう私にとって失いたくないのは祖母だけだった。

「ここに名前を書け。あとはこっちでやる」

 父親に乱暴に渡された婚姻届。

 ドラマや小説ではここに名前を書く瞬間、ロマンチックな演出がよくされている。しかし私にはそんなもの無縁だ。

 なんの気持ちも込めずに名前を書く。

 ――これでおばあちゃんが助かる。

 私の望みはあの頃も、そして今も祖母の幸せだけだ。
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