政略結婚した顔も知らない夫に気づけば溺愛されていたようです~御曹司は甘く攻めて逃がさない~
近藤家は世間では立派な一族だと思われている。
それは代々国会議員を輩出し、祖父が国土交通大臣を務めた政界の重鎮であるからだ。引退し、地盤を息子である私の父・近藤由幸(よしゆき)に譲った後も、かなりの影響力を持っていた。
しかしその祖父が三年前に急逝してから、坂道を転がるように転落していく。その原因は父にある。そもそも政治家が務まる器ではないのだ。
それなのにひとり息子だからといって、小さな頃から政治家になるべく育てられた。その結果、実力が伴わないただのプライドの高い人間が出来上がった。
選挙活動のために、我が家の家計は常にひっ迫していた。
しかし周囲には余裕のあるように見せなくてはいけない。
中身が空っぽ。それが私の実家である近藤家だ。
政治的な能力のない父では、祖父の地位までは上り詰めるのは無理だろう。そもそも次の選挙での当選自体あやうい。
でもなんとかして食らいつかないと、父は政治家以外生きていくすべがないのだ。
そこで娘の私を政略結婚の道具にした。
近藤家というブランドに力があるうちに、資金提供を受ける。それが私の結婚の目的だった。
政治一家なんて聞こえはいいが、内情はひどいものだ。
母は横柄な父に耐えられず、私が小さい頃に離婚して音信不通。
祖父や父には『なぜ男に生まれなかった』と責められ、厳しく育てられた。
勉強も運動も人付き合いも普通の私を見ては、ダメなやつだと言い続けた。
そんな中、唯一私の理解者だったのは、祖母だ。祖母がいなければ今の私はいなかっただろう。
祖母が私の生きる意味だ。だから他のことはどうでもいい。たとえ夫になる人が顔も知らない相手だったとしてもなんとも思わなかった。
なにもできない自分が横暴な父から祖母を守るには、この方法しかなかったからだ。
こんなこと正しくないと思う。それでももう一度同じ選択を迫られたら、私は間違いなく同じ道を選ぶ。
ただ自分がこんな家に生まれてきたことは、ずっと恨むだろうな。
近藤の家が嫌で、会ったこともない政略結婚の相手の名字、鈴木にしたくらいだ。
お相手の方は建設業を営む『セイソウコーポレーション株式会社』の長男だと聞いた。本人は家業には携わっていないそうだ。私が知っているのはその程度。
正直相手の方がどんな人でもよかった。誰が相手だとしても変わらないと思っていたからだ。
三年経った今でも、結局私の夫〝鈴木さん〟とは一度も会ったことはない。手続きはすべて父の弁護士が終え、私が日常生活を送っている間に近藤から鈴木に姓が変わった。
私の手元には〝旦那様〟の弁護士の連絡先である名刺だけがかろうじてあった。なにかあれば連絡するように言われているが、今のところ連絡したことは一度もない。
こんな婚姻関係になんの意味があるのかと思う。でも結婚したという事実で祖父の権威を借りることができるらしい。
私にはまったく興味のない話だ。
おばあちゃんが穏やかに過ごせるならそれでいい。