政略結婚した顔も知らない夫に気づけば溺愛されていたようです~御曹司は甘く攻めて逃がさない~
「では、私はこれで」
「待ってください」
竹野さんに呼び止められた。
「実は急用でもう一度外に出ないといけないんですが、お時間が許すなら月城の看病をお任せしてもよろしいでしょうか?」
縋るような視線を向けられて、即座に断れない。
「え……時間はありますが、あの、私がですか?」
自分を指さして尋ねる。
「急なことで、私の代わりの者が見つからないのです。ただ月城をこのまま放っておくわけにもいきませんので、どうか助けると思ってご協力いただけませんか?」
「でも……」
相手が困っているのはわかるが、本当に私でいいのだろうか。
私が困惑して決断できずにいると、竹野さんはさっと身をひるがえした。
「一時間ほどで戻りますので。では」
「え、待って――」
返事を待たずにすぐに出ていってしまった。取り残された私は茫然とする。
どうしてこんなことになったんだろう……。
しかしすでにこういう状況になってしまったのだから、考えても仕方がない。まずは月城様の様子をうかがおうと彼の方を見ると、変わらず苦しそうな息遣いをしている。
乗りかかった船だし。今日はもう仕事は終わりだから、ここで時間を取っても誰に迷惑がかかるでもない。
それに病気の時は心細いものだ。目の前で苦しんでいる人を放っておけない。
私もひとり暮らしに慣れているので、普段寂しいと思うことはないけれど、病気の時は別だ。心細くてたまらなくなる。