政略結婚した顔も知らない夫に気づけば溺愛されていたようです~御曹司は甘く攻めて逃がさない~
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パーティーの翌日。久しぶりの休日はたまっていた家事を済ませた後、祖母のお見舞いに行く予定だ。
三年前に施設に入ってから、月に数回は会いに行くようにしている。もう年なので急激によくなることはないけれど、今は心臓の持病も落ち着いていて穏やかに過ごしている。
私にとっての祖母は、この世で唯一私を心から愛してくれた人だ。
私の実家――近藤(こんどう)家は、家族としては欠陥だらけだった。
家族に厳しい祖父と横暴な父に、母は家に嫌気がさして私を置いてずいぶん前に家を出ていた。それからは一切連絡もない。今は顔を思い出すのも難しいくらいだ。
祖父が亡くなった後、父は体の悪い祖母をお荷物扱いして面倒を見ることを拒んだので、祖母の世話は私が引き受けたのだ。
とはいっても、施設で過ごしているので私はこうやって時間を見つけて顔を見に行くことくらいしか、今はできなかった。
途中で祖母の好きなクッキーを買って、施設から用意するように言われた日用品と一緒に届ける。
祖母が滞在するこの施設は、大規模ではないが緑が多く、スタッフの方も祖母の介護を丁寧にしてくれる。本来ならつきっきりでいたいけれど、仕事をしなくてはいけない。その間ひとりにできないので、施設でしっかり見守ってもらえるのは助かる。
ここを訪れて祖母と会話をするのが私の休日の過ごし方だった。
「おばあちゃん、今日はクッキー買ってきたの。一緒に食べよう」
天気がいいため、車いすを押して庭に出た。綺麗に手入れされた庭園では祖母のように日向ぼっこをしている人や、リハビリのために歩いている人などがたくさんいる。
「いつもありがとう。でも私はいいから初香ちゃんが食べなさい」
差し出したクッキーを祖母の手が私の方へと押しとどめる。しかし私はそれを無理やり祖母の手にのせた。
「もちろん私の分もあるよ。でもこれはおばあちゃんのだから食べて」
「わかったよ、ありがとうね」
祖母はにっこりと笑って、クッキーを食べた。
「昔、一緒にクッキーを焼いたよね、覚えてる? おばあちゃん」
「もちろんだよ。初香ちゃんはうさぎの形が崩れて泣いていたね」
「そんなこと覚えてないよ」
両親に代わり私を育ててくれたのは祖母だ。クッキーを焼いたり折り紙を教えてくれたり、日常の幸せはすべて祖母が与えてくれていた。
だからこそ、穏やかな環境で長生きしてほしい。
最近食が細くなってきたと聞いている。だから私と一緒の時、少しだけでも食べてほしいと思う。