淡い嘘
【嘘】

人は、嘘をつく。

自分を守るために、相手を守るために、時には卑怯な嘘もつく。

でもその嘘には必ず、意味がある。

そして私は、自分に”嘘”をついた。



中学の時に好きだった人。

私の日常を照らしてくれた人。

あなたがいるだけで笑顔になれた記憶が今でも頭に残っている。

あなたのおかげで苦しかった学校が少しはマシなものに思えたの。

忘れられないその記憶も今では過去の思い出。

それは伝わることのない淡い恋心だった。

あなたは、皆に平等に接して気遣いができる人。

そこに惹かれて、

あなたを、私は気づいたら目で追っていた。


眩しすぎるほどの笑顔で話しかけられたあの瞬間から、心を奪われたのだと思う。

あなたにとってはいつも通りに誰かに話しかけただけ。

きっとこの会話もあなたの記憶に残ることはないだろう。

それでよかった。

皆に分け隔てなく関わる、そんなあなたに惹かれたから。



「あゆみは、好きな人いるの?」


中学生の時、友達から聞かれたこの言葉。

この頃の私は、たぶん誰かにこの気持ちを知られるのが恥ずかしかったのだと思う。


「いないよ」


本当にいないかのような表情で答え、

無意識に”嘘”をついていた。


あなたにもこの気持ちを伝えることはきっとないだろう。

ずっとそう思っていたから。


きっと中学を卒業して、高校生になって、大学生にもなったら思い出すこともなくなると思っていたこの気持ち。


“好きだった人”と過去の思い出になるはずだった。




あの時までは---------。




大学生になったある日。

ふと見たドラマで中学の時の回想シーンが流れた。

なんだかノスタルジックな気持ちになり、

中学の時の気持ちが蘇る。

懐かしさと同時に後悔していることも思い出した。


あの時、あなたに気持ちを伝えられていたら何かが変わっていたのかな。

そう思った時には、体が勝手に動いてスマホを取り出していた。







---------「中学の時、好きでした。」





送ったDMを眺める。

心臓がうるさい。

何で言ってしまったのだろう。

そう考えたときにはもう手遅れだった。

頭を抱えていた時にすぐについた既読の文字。

どうしてもそれを直視できない。






---------「ありがとう」




あなたからのその言葉を見て私の恋は終わりを告げた。

今まで言葉にできなかったこの気持ちをあなたに伝えられた。

その事実だけで心が開放されたような気がする。

そして、スマホの電源を切った時、通知が鳴った。







---------「ご飯でも食べに行く?」






........。え?



スマホの画面を何度見したことだろう。



驚きで手が止まっていた。




嫌でも期待してしまうその言葉に胸が苦しくなる。




素直に喜びたい気持ちと臆病な気持ち。




私はもう、この気持ちに”嘘”をつかなくていいのかな。




初めて、そう思えた日だった。
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