執着系御曹司は最愛の幼馴染みを離さない
店を出て帰路に就く途中に見上げた空は、今にも雨が降りだしそうなほど暗かった。
最寄り駅に着く頃には雪が降りはじめていた。
改札を出て邸へ向かい歩いていると、途中でスマートフォンに連絡が入った。
【今どこにいる? 雪が降りはじめているから迎えに行く】
もう家に帰る途中だからいいと返信し、スマートフォンをしまった。すると、メッセージを送ってからわずか数分で、どこからか足音が聞こえてくる。
「杏! お前、傘も差さないで!」
正直、今は会いたくなかった。
離れる決意をしたものの、こんなにすぐその時がやってくるなんて思っていない。
悠真の顔を見ると、涙が込み上げてくる。美月と付き合っているなんて知らなかった。どうして自分ではダメなのかと縋りついてしまいそうになる。
杏は震える唇に力を込めて、涙を必死にこらえた。
(好きな人が幸せになるんだから、それでいい)
本心ではちっともそんな風に思えない。それでも杏は自分にそう言い聞かせた。もう少しだけと先延ばしにすれば、さらに決意が鈍るだろう。
杏は爪が刺さるほど強く手を握りしめ、真っ直ぐに彼を見据えた。
「傘持ってただろう? どうしてこんなに濡れてるんだ。風邪を引いたらどうする」
悠真は傘も差さずに歩いていた杏を訝しみ、頭についていた雪を手で払う。
「だから迎えに行くって言ったんだ。ちゃんと俺の言うことを聞いておけよ」
「そういうの、もうやめて」
杏は彼の手を、思い切り振り払った。
「杏?」
悠真の気遣いや優しさが嬉しいのに、これから自分はひどい嘘で彼を傷つける。
悠真のそばにいたい。そばにいられるなら妹でもいい。そんな気持ちが沸々と湧き上がってくるが、寄り添うふたりを思い浮かべて、必死に打ち消した。
「どうした?」
「……過保護にもほどがあるでしょ。私、もう二十二歳だよ?」
我ながら演技とは思えないほど低い声が出た。好きな人に当たり散らすなんて最低だと思うが、最後に失恋の痛手を晴らすくらいはさせてほしい。
「杏?」
悠真がいつもとは様子の違う杏に訝しげな顔をする。
「しつこいの! 何回もメッセージ送るとか、こうやって頼んでもいないのに迎えに来るとかもうやめてよ。私だって好きな人がいるし、デートとかしたいのに、保護者みたいにそばにいられるのは困る」
怒りで涙が込み上げてきたふりをして、愕然とする悠真を振り切り、家までの道を走った。悠真が追いかけてくる足音は聞こえてこない。
杏は玄関の鍵を開けて、部屋に閉じこもると、耐えきれずに嗚咽を漏らした。
「……っ、うぅぅぅ」
好きな人はあなただと言いたかった。
美月と結婚なんてしないでと叫びたかった。それが叶わないなら、妹でもいいからそばに置いてほしいと縋りたかった。
いつか彼の気持ちが家族愛から恋愛に変わることを、叶うはずがないと知りながらも心のどこかで夢見ていた。
けれど悠真の迷惑にはなりたくない。悠真の幸せの邪魔をしたくない。
杏は悠真の電話もメールもSNSもブロックした。
すべてを終えた時、力尽きて、立ち上がる気力さえなかった。振り払った手がじんじんと痛み、その痛みにこれは間違いなく現実だと知らしめられる。
最寄り駅に着く頃には雪が降りはじめていた。
改札を出て邸へ向かい歩いていると、途中でスマートフォンに連絡が入った。
【今どこにいる? 雪が降りはじめているから迎えに行く】
もう家に帰る途中だからいいと返信し、スマートフォンをしまった。すると、メッセージを送ってからわずか数分で、どこからか足音が聞こえてくる。
「杏! お前、傘も差さないで!」
正直、今は会いたくなかった。
離れる決意をしたものの、こんなにすぐその時がやってくるなんて思っていない。
悠真の顔を見ると、涙が込み上げてくる。美月と付き合っているなんて知らなかった。どうして自分ではダメなのかと縋りついてしまいそうになる。
杏は震える唇に力を込めて、涙を必死にこらえた。
(好きな人が幸せになるんだから、それでいい)
本心ではちっともそんな風に思えない。それでも杏は自分にそう言い聞かせた。もう少しだけと先延ばしにすれば、さらに決意が鈍るだろう。
杏は爪が刺さるほど強く手を握りしめ、真っ直ぐに彼を見据えた。
「傘持ってただろう? どうしてこんなに濡れてるんだ。風邪を引いたらどうする」
悠真は傘も差さずに歩いていた杏を訝しみ、頭についていた雪を手で払う。
「だから迎えに行くって言ったんだ。ちゃんと俺の言うことを聞いておけよ」
「そういうの、もうやめて」
杏は彼の手を、思い切り振り払った。
「杏?」
悠真の気遣いや優しさが嬉しいのに、これから自分はひどい嘘で彼を傷つける。
悠真のそばにいたい。そばにいられるなら妹でもいい。そんな気持ちが沸々と湧き上がってくるが、寄り添うふたりを思い浮かべて、必死に打ち消した。
「どうした?」
「……過保護にもほどがあるでしょ。私、もう二十二歳だよ?」
我ながら演技とは思えないほど低い声が出た。好きな人に当たり散らすなんて最低だと思うが、最後に失恋の痛手を晴らすくらいはさせてほしい。
「杏?」
悠真がいつもとは様子の違う杏に訝しげな顔をする。
「しつこいの! 何回もメッセージ送るとか、こうやって頼んでもいないのに迎えに来るとかもうやめてよ。私だって好きな人がいるし、デートとかしたいのに、保護者みたいにそばにいられるのは困る」
怒りで涙が込み上げてきたふりをして、愕然とする悠真を振り切り、家までの道を走った。悠真が追いかけてくる足音は聞こえてこない。
杏は玄関の鍵を開けて、部屋に閉じこもると、耐えきれずに嗚咽を漏らした。
「……っ、うぅぅぅ」
好きな人はあなただと言いたかった。
美月と結婚なんてしないでと叫びたかった。それが叶わないなら、妹でもいいからそばに置いてほしいと縋りたかった。
いつか彼の気持ちが家族愛から恋愛に変わることを、叶うはずがないと知りながらも心のどこかで夢見ていた。
けれど悠真の迷惑にはなりたくない。悠真の幸せの邪魔をしたくない。
杏は悠真の電話もメールもSNSもブロックした。
すべてを終えた時、力尽きて、立ち上がる気力さえなかった。振り払った手がじんじんと痛み、その痛みにこれは間違いなく現実だと知らしめられる。