執着系御曹司は最愛の幼馴染みを離さない
「……っと、ちょっとってば! 電話が鳴ってるんだけど!」
丸山の声に我に返り、杏の意識が過去から急激に引き戻された。
どれだけ電話が鳴り続けていたのか、同僚全員が杏に視線を向けている。
杏は慌てて受話器を持ち上げ、電話に出た。
「お待たせしました……っ、小宮山フーズです」
電話は工場からで、総務部が管理している備品の納品についてだった。
いつも通りに対応を済ませて電話を切ると、小宮山が険しい顔でこちらを睨んでいる。
「電話くらいさっさと出なさいよ。あんたが一番下っ端なんだから」
「すみません」
ぼんやりと過去を思い出していたら、休憩時間はあと十分ほどしかなくなっている。デスクに置いた弁当はまだおかずをひとつ食べただけで、ほとんどが残ったままだ。
あれから五年も経つのに、こうしてたびたび悠真を思い出してしまうのは、日々の楽しみが過去の思い出に縋るくらいしかないからだろうかもしれない。
新しい出会いはあっても、新しい恋はできそうにない。
杏の心の深いところには、いまだに彼がいる。
(でも、伊智子さんから悠真くんが結婚したなんて話は聞かないけど……美月さんとはどうなってるんだろう)
寮に引っ越してから、いつ結婚の連絡が来るのかとびくびくしていたのに、今日に至るまで悠真が婚約したという話さえ聞かない。
小宮山フーズに就職してからは、美月とも疎遠になってしまった。
悠真との結婚話を聞きたくなかったという理由もあるし、この会社を紹介してくれた美月に、人間関係でうまくいっていないと知られたくなかったのもある。
(きっとまだ……付き合っては、いるんだよね)
伊智子から連絡が来るたび、結婚の報告じゃなければいいのにと祈っている。そして悠真がまだ結婚していないと知り、安堵してしまうのだ。
それでも五年という年月は杏を大人にしてくれた。
あの頃よりは冷静に、悠真と美月の幸せを祝えるだろう。
また思案に暮れそうになり、杏は意識を切り替えた。
工場から頼まれた仕事をすぐに片付けなければ、またお小言を食らってしまう。杏は弁当を片付けてバッグにしまい、備品室に向かったのだった。
>>>続きは書籍でお楽しみください
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どれだけ電話が鳴り続けていたのか、同僚全員が杏に視線を向けている。
杏は慌てて受話器を持ち上げ、電話に出た。
「お待たせしました……っ、小宮山フーズです」
電話は工場からで、総務部が管理している備品の納品についてだった。
いつも通りに対応を済ませて電話を切ると、小宮山が険しい顔でこちらを睨んでいる。
「電話くらいさっさと出なさいよ。あんたが一番下っ端なんだから」
「すみません」
ぼんやりと過去を思い出していたら、休憩時間はあと十分ほどしかなくなっている。デスクに置いた弁当はまだおかずをひとつ食べただけで、ほとんどが残ったままだ。
あれから五年も経つのに、こうしてたびたび悠真を思い出してしまうのは、日々の楽しみが過去の思い出に縋るくらいしかないからだろうかもしれない。
新しい出会いはあっても、新しい恋はできそうにない。
杏の心の深いところには、いまだに彼がいる。
(でも、伊智子さんから悠真くんが結婚したなんて話は聞かないけど……美月さんとはどうなってるんだろう)
寮に引っ越してから、いつ結婚の連絡が来るのかとびくびくしていたのに、今日に至るまで悠真が婚約したという話さえ聞かない。
小宮山フーズに就職してからは、美月とも疎遠になってしまった。
悠真との結婚話を聞きたくなかったという理由もあるし、この会社を紹介してくれた美月に、人間関係でうまくいっていないと知られたくなかったのもある。
(きっとまだ……付き合っては、いるんだよね)
伊智子から連絡が来るたび、結婚の報告じゃなければいいのにと祈っている。そして悠真がまだ結婚していないと知り、安堵してしまうのだ。
それでも五年という年月は杏を大人にしてくれた。
あの頃よりは冷静に、悠真と美月の幸せを祝えるだろう。
また思案に暮れそうになり、杏は意識を切り替えた。
工場から頼まれた仕事をすぐに片付けなければ、またお小言を食らってしまう。杏は弁当を片付けてバッグにしまい、備品室に向かったのだった。
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