執着系御曹司は最愛の幼馴染みを離さない
それから三年が経ったある日、真っ黒のワンピースに身を包んだ杏は、庭の草を千切りながら、ほろほろと涙をこぼしていた。
「ここにいたのか」
後ろから声をかけられて、真っ赤な目のまま振り返る。悠真は杏を捜していたのか息を切らし、額には汗をかいていた。
「だって……おばあちゃんが」
悠真の祖母が亡くなり、昨夜のうちに通夜が、一夜明けた今日、自宅で告別式が執り行われた。あまりに杏が泣くため、葬儀の進行や弔問に訪れた客の対応をしていた祖父母から離れで待つようにと言われて庭に出ていたのだ。
悠真は涙でぐしゃぐしゃになった杏の顔を乱暴にハンカチで拭い、隣に腰を下ろした。
「俺のばあちゃんだろ。杏が泣く必要はない」
「だって、伊智子さんが、一緒に暮らしてるんだから、家族みたいなものよって言ってた。家族が死んじゃったら、悲しいもん」
「家族か……まぁ、一緒に暮らしてるようなもんだしな」
ふたたび涙をこぼす杏に呆れた顔を見せた悠真は、ため息をひとつつき、ポケットからなにかを取りだした。
「でも杏が泣いてると、ばあちゃんが天国に行けないだろ。ほら、これをやるから早く泣きやめよ」
「なにこれ? かわいい……」
杏の手のひらにぽいとのせられたのは、小さな指輪。中央には赤いガラス玉がはまっている。杏は目を輝かせながら指輪を空にかざした。
「綺麗~」
「クラスの女子に無理矢理押しつけられたから、捨てようと思ってポケットに入れてたやつだけど、いらないから杏にやる」
「くれるの?」
「俺にとってはゴミだからな」
ぶっきらぼうな言い方だが、杏は気にならなかった。
怒っているように見えても悠真が本当は優しいと知っている。
「嬉しい、ありがと。悠真くん優しいから、好き」
学校のクラスメイトとはまるで違う。暴れん坊の男子たちは杏が泣いていたら、からかいはしてもハンカチも指輪も出してこない。
杏は彼がくれた指輪をなんともなしに左手の薬指に嵌めた。しかし、それに驚いて固まったのは隣に腰を下ろす悠真だ。
「なん……っ」
「なぁに?」
「なんでもないっ」
「へへへ、悠真くんからのプレゼントだぁ」
驚いたような悠真の声に隣を見ると、彼の頬が真っ赤に染まっている。杏は泣いていたことも忘れて、ご機嫌で指輪を眺め続けた。
この時の杏は悠真にプロポーズをされたと思い込んでいたのだ。
しかし、ふたりで仲よく遊んでいられたのも、悠真が小学校を卒業するまでの話。悠真が中学に上がれば、顔を合わせる頻度がどんどん少なくなっていった。
祖父母からも、悠真との立場の違いを滾(こん)々(こん)と聞かされ、あまり馴れ馴れしくしないようにと窘(たしな)窘められた。
冷たくされているわけではないし、顔を合わせれば普通に話す。それでも、ふたりで遊んでいた頃に戻りたいと思うくらいに距離があり、杏はそれが寂しかった。
杏が中学に上がる頃には、この気持ちが恋だと自覚した。
名波家の跡継ぎである悠真に恋をしたところで叶うはずがないのも、妹のようにしか思われていないこともわかっていたけれど、止められなかった。
「ここにいたのか」
後ろから声をかけられて、真っ赤な目のまま振り返る。悠真は杏を捜していたのか息を切らし、額には汗をかいていた。
「だって……おばあちゃんが」
悠真の祖母が亡くなり、昨夜のうちに通夜が、一夜明けた今日、自宅で告別式が執り行われた。あまりに杏が泣くため、葬儀の進行や弔問に訪れた客の対応をしていた祖父母から離れで待つようにと言われて庭に出ていたのだ。
悠真は涙でぐしゃぐしゃになった杏の顔を乱暴にハンカチで拭い、隣に腰を下ろした。
「俺のばあちゃんだろ。杏が泣く必要はない」
「だって、伊智子さんが、一緒に暮らしてるんだから、家族みたいなものよって言ってた。家族が死んじゃったら、悲しいもん」
「家族か……まぁ、一緒に暮らしてるようなもんだしな」
ふたたび涙をこぼす杏に呆れた顔を見せた悠真は、ため息をひとつつき、ポケットからなにかを取りだした。
「でも杏が泣いてると、ばあちゃんが天国に行けないだろ。ほら、これをやるから早く泣きやめよ」
「なにこれ? かわいい……」
杏の手のひらにぽいとのせられたのは、小さな指輪。中央には赤いガラス玉がはまっている。杏は目を輝かせながら指輪を空にかざした。
「綺麗~」
「クラスの女子に無理矢理押しつけられたから、捨てようと思ってポケットに入れてたやつだけど、いらないから杏にやる」
「くれるの?」
「俺にとってはゴミだからな」
ぶっきらぼうな言い方だが、杏は気にならなかった。
怒っているように見えても悠真が本当は優しいと知っている。
「嬉しい、ありがと。悠真くん優しいから、好き」
学校のクラスメイトとはまるで違う。暴れん坊の男子たちは杏が泣いていたら、からかいはしてもハンカチも指輪も出してこない。
杏は彼がくれた指輪をなんともなしに左手の薬指に嵌めた。しかし、それに驚いて固まったのは隣に腰を下ろす悠真だ。
「なん……っ」
「なぁに?」
「なんでもないっ」
「へへへ、悠真くんからのプレゼントだぁ」
驚いたような悠真の声に隣を見ると、彼の頬が真っ赤に染まっている。杏は泣いていたことも忘れて、ご機嫌で指輪を眺め続けた。
この時の杏は悠真にプロポーズをされたと思い込んでいたのだ。
しかし、ふたりで仲よく遊んでいられたのも、悠真が小学校を卒業するまでの話。悠真が中学に上がれば、顔を合わせる頻度がどんどん少なくなっていった。
祖父母からも、悠真との立場の違いを滾(こん)々(こん)と聞かされ、あまり馴れ馴れしくしないようにと窘(たしな)窘められた。
冷たくされているわけではないし、顔を合わせれば普通に話す。それでも、ふたりで遊んでいた頃に戻りたいと思うくらいに距離があり、杏はそれが寂しかった。
杏が中学に上がる頃には、この気持ちが恋だと自覚した。
名波家の跡継ぎである悠真に恋をしたところで叶うはずがないのも、妹のようにしか思われていないこともわかっていたけれど、止められなかった。