この空の青を、君は知らない
八月も終わり、屋上に吹く風はほんの少し冷たくなっていて、涼しかった。
「ちょっと久しぶりだね、ここ来るの」
天音が空を見上げたまま言う。
「やっぱり、屋上からみる空っていいよな」
そう言って微笑むと、天音もにこりと笑い返した。
お互いの病室を行き来するようになってから、屋上に来ることは前よりもかなり減っていた。
昼は天音の部屋で過ごし、
夜は、僕の部屋の窓から二人で空を眺めた。
そんな日が、少しずつ増えていった。
こんなことは天音には決して言わないけれど、最近、体がやけに重く感じることが多くなった。
足を止めるほどじゃないのに、階段を上るだけで息が上がる。
何も言わないけれど、もしかしたら天音も同じかもしれないと思う。
それでも、屋上から天音と見上げる空は格別で、どちらからともなくこうして見に来ていた。
「ねぇ、遥人」
「ん?」
「今度さ、流星群が降るんだって」
ほんの少し、弾んだ声。
「流星群、か。もうずっと見てないな」
「私も」
「いつあるの?」
「十月だって。オリオン座流星群。
今年はたくさん降るんだって!」
「そっか」
「一緒に、見れたらいいね」
天音は頭上の高いところで淡く光る星を見つめる。
「……見よう」
ほんの一瞬、言葉が詰まった。
それでも、そう答えた。
隣で、天音が小さく笑った気がした。
風が吹く。
さっきより、ほんの少しだけ強く。
「楽しみだね」
「ああ」
同じ言葉を返す。
それ以上は、何も言えなかった。
空を見上げる。
さっきより雲が流れて、星がいくつか隠れていく。
それでも、まだ残っている光があった。
手すりに置いた指先に、わずかに力が入る。
こんな夜が、消えずに残ればいいと、ふと思った。
隣にいる天音は、やわらかな笑顔を浮かべて、空を見上げている。
その横顔を、もう一度だけ見て、視線を空へと戻す。
夜は、静かに流れていく。