この空の青を、君は知らない
目を覚ますと、見慣れた天井が視界に入った。
白くて、遠い。
廊下から、忙しない足音と、ワゴンの立てる音が届く。
朝が来た。
カーテンの隙間から漏れた光に、思わず目を細めて背を向ける。
今日もまた、同じ一日が始まる。
それなのに、まだぼんやりとした頭の奥に、いつもとは違う景色が残っていた。
月の光。
冷たい風。
開かれたスケッチブックの上で重なる、青。
触れたわけでもないのに、指先に感触が残っている気がした。
夢だったのかな、と思って、すぐに首を振る。
夢にしては、あまりにも残りすぎている。
消える気配は、どこにもなかった。
まだ眠気を纏った重たい体を起こす。
ベッドサイドのテーブルに置きっぱなしの鞄が目に入った。
少し飛び出したスケッチブックを見た瞬間、昨夜の記憶が、はっきりと現実として戻ってくる。
夜空の下。
そこに、確かに彼女はいた。
儚く淡く。
月明かりに照らされながら、僕の描いた空を見て笑っていた横顔。
思い出そうとしなくても、自然と浮かんでくる。
まるで、ずっと前から知っていたみたいに。
——やっぱり、夢じゃない。
形も色もない何かが、胸の奥でじんわりと広がった。
言葉にはできない、けれど、確かにそこにあるものを感じた。
——名前、聞いてなかったな……。