星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
 せっかく元気になった彼をまた落ち込ませてしまった。彼を励ますことを言わなくては、と詩季は焦る。
「私も落ち込むことがあってね」
 絃斗は顔を彼女に向けた。

「元カレが結婚するんだって。未練はないし、悔しいとも違うんだけど、私とは無理でもその人との時間は作れたんだって、そんなこと思っちゃって」
「それでやけ酒ですか?」
「仕事のこともあったの。アパレルの店長なんだけど」

 二十代前半に向けた店で、詩季はほかの店員より年齢が高い。
 このところ、感性のずれを感じていた。焦って勉強をしても、どんどんおしゃれがわからなくなる。
 最近は声をかけても逃げるように立ち去るお客様のほうが多く、売上は横這いだった。
 その矢先に、年齢層が上のショップへの異動の打診が来た。

「後輩が育って私よりも売り上げがあるし、もう用済みなんだとか、取り残された気がして」
 まるで泥沼に足をとられたかのように、まったく前に進めていない。なのにみんなは順調に進んでいく焦燥感。

「仕事も恋もうまくいかないまま、なにをやってるんだろうって虚しくなったの」
「評価されたから異動なのでは? 挑戦してみる価値ありますよ!」

「簡単に切り替えられないから……」
「すみません」
 絃斗が言葉を切ると沈黙が降り、空気が質量を持ってのしかかってくる気がした。

 詩季は服の裾をぎゅっと掴んだ。
 結局自分はなにを告白したんだ。彼を励ましたかったのに。
 苦しんでいるのは彼だけではない、と伝えたかった。そうすれば少しは楽になれるかと思ったのに、なんだかずれている気がしてならない。
< 17 / 53 >

この作品をシェア

pagetop